挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
幼馴染……それは綺羅びやかな出逢いと雅で甘美な思い出に染められた大切にして不可欠な存在であり、互いの手を取り合い共に支え合い、約束の未来へと進み苦楽を分け合う掛け替えの無い特別なパートナー……のはず。 作者:新夜 詩希
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

8/10

【在りし過去とのエンカウント】

「おい! 誰か早く監督呼んで来い!!」

 あれは忘れもしない3年前の夏の日、サウナのように蒸し暑い体育館での出来事。オレは夢が砕ける音を聴いた―――



 疲労性剥離骨折。

 そんな言葉が耳に入って来たのはそれから数時間後の、病院の一室だった。その間の記憶はない。試合形式の練習でハーフライン手前でパスを受け、一人目をクイックフェイントで置き去りにし、二人目をターンでかわし、壁パスを受け、三人目をシュートフェイクで抜き去り、完璧な体勢でシュートモーションに入った所までは覚えている。だがそれから後の、あの奇妙な音が聴こえた瞬間から診察室で聞き慣れない単語を耳にするまでの数時間は消しゴムを掛けたようにキレイさっぱり抜け落ちている。
 予兆はあった。練習中、右肘に軋むような痛みが走るのはさほど珍しい事ではなかったが、そんな痛みに構ってられなかったのと認めたくなかったのが半々。結果、限界を超えてしまった。……まさかよりによって他でもない自分の身体が自分の努力を裏切ってくれようとは。
 確かに幼い頃からろくなコーチも付けず、ボールを追い駆けていたオレのシュートフォームは肘の使い方に独特な癖があったらしい。だがそれでも入ってしまうのだから仕方がない。上手く撃てないのなら改善の余地もあっただろうに、オレはどうやら他の人よりも少し才能があったらしく、自分のシュートフォームに疑いを抱かなかった。
 骨折自体はそう重いものじゃないらしい。ただし問題なのはそこじゃなかった。剥離骨折というのは骨が密接する筋肉や腱から剥がれる、文字通り『剥離』する事で起こる。通常なら軽くて全治3ヶ月と言った所だ。……だがオレのそれは普通とは少し違って、骨が剥離した際に僅か数センチの欠片が発生。そいつが運悪く肘関節の神経を傷つけやがった。この所為でオレの右肘はもう今まで通りの動きが出来なくなった。
 今でこそ日常生活に支障ないレベルまでは使えるようになったものの、ちょっとした荷物を持ち上げる時や腕を頭上に伸ばす時なんかは痺れや鈍痛が走る。当時で言えば、指一つ動かすのさえままならない。そんな状態でバスケなんて夢のまた夢だ。バスケに全てをつぎ込んで来たオレにとって、死刑宣告も同様。あの時壊れたのは骨なんかじゃなく、オレの夢そのものだった。

 それからのオレは……まあ想像に難くないだろう。自暴自棄になって荒れに荒れて、今思い返してもバカな事ばっかりやっていた。両親や友達、梨羽にも散々迷惑を掛けた。そりゃあ梨羽だってオレと関わるのは避けるだろう。
 ……実の所、少しでも梨羽に励まして貰えれば、なんて情けない事を心の何処かで考えていたりもした。梨羽ならオレを元気付けてくれるだろう、なんて自分勝手な淡い期待を抱いていた。……しかし実際は、会話らしい会話なんて殆どなかった。たまに会っても妙によそよそしく、目だけが憐れみを伝えて来る。そんな梨羽の視線や態度がオレの精神を粟立たせ、苛立ちや自閉に拍車を掛けた。……いや、他人の所為にするのは良くないな。それはオレが弱かった、バカだっただけの話だ。梨羽に責任なんて一欠片もない。
 暴れ散らすのも飽きた頃、オレは何気なくTVでやっていたとある番組に心を奪われる。それはオレが今までバカにしていた、所謂オタク御用達の『アニメ』だった。小さなTVの中で展開する、色鮮やかな世界。個性的なキャラクター達が共に協力し困難に立ち向かい、時に笑い、時に悩み、そしてくすぐったいような恋をする。空っぽだったオレには、その全てがたまらなく輝いて見えた。
 それからアニメやラノベ、マンガにのめり込んだオレはまるで憑き物でも落ちたかのように、落ち着きを取り戻し穏やかな性格になった。……まあ、梨羽や周りからは『染まり過ぎ』との声もあるが、オレはこのアニメや二次元に囲まれた今が楽しくて仕方がない。話の合う友人もいるし、あの黒歴史のように意味もなく苛ついたり常にストレスを貯めていたりする事もない。アニメに出会えて、オレは救われたんだと言っても過言ではないだろう。

 ……そう、こんな経験をしているオレだからこそ、今の梨羽は放っては置けない。今はどうであれ、オレは結局の所ケガを理由にバスケから逃げたんだ。あそこで腐らずリハビリに尽力して、バスケを諦めなかったらまた別の人生があっただろう。だがしかし、周りから見たら今のオレは立派な爪弾き者だ。落伍者と言い換えてもいい。確かに後悔はしていないし納得もしているが、梨羽にオレと同じ道を辿って欲しいかと言えばそれは断じてNOだ。
 梨羽は真面目で人望も才能もある。それが潰れてしまうのが勿体ないと思うかどうかは梨羽次第だし俺がどうこう言えた事ではないが、梨羽は強く見えて意外と脆い。最後の大会に出られなくなってしまったという今回の件で立ち直れなくなる可能性は、オレの見立てではかなり高いように思う。それも時間の問題だろう。
 ……こんなオレが果たしてどの程度の事をしてやれるのか、全然分からないし自信もない。だがオレにしか言えない事、オレだけにしか分からない事はきっとある。……新海に諭されたってのは少し情けないが、梨羽がピンチの今、形振りなんて構っていられない。



 ……そう、何故ならオレ達は『幼馴染』なんだから―――――



+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ