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幼馴染……それは綺羅びやかな出逢いと雅で甘美な思い出に染められた大切にして不可欠な存在であり、互いの手を取り合い共に支え合い、約束の未来へと進み苦楽を分け合う掛け替えの無い特別なパートナー……のはず。 作者:新夜 詩希
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【揺らぎ昂るコンセントレーション】

「………………」

ヒュンッ カッ



 放課後。風を薙ぐ感触が頬を撫でる。部活に参加している私は、一心不乱……とは少しニュアンスが違う気がするけど、それに似たような感覚で弓を引き続けていた。

「………………」

ヒュンッ カッ

 的を見据えて、弓を引き、撃ち放って矢の行方を見守る。一定のリズムで同じ動作を繰り返す。弓は最早私の一部だ。そこに淀みなどある訳がない。……いや、むしろ私が弓の一部になってしまっているような気さえする。上手く引けるならどちらでも構わないが。

「………………」

ヒュンッ カッ

「おい……今日の桜木先輩、何か変じゃね?」「ああ、心ここに在らずって感じだな……」「その割に的中率がハンパねーけど……」「うん、今の所全部(あて)てる」「スゴすぎだよ、桜木先輩……」「相変わらず綺麗な射よねぇ……惚れ惚れしちゃうわ」

 雑音が耳に入らない。自己に埋没し過ぎると外界とは別次元に精神が隔離されてしまうのか、バカの一つ覚えみたいに機械じみた動きで身体が射だけを繰り返していた。

「………………」

ヒュンッ カッ

 的に浮かぶ顔。幼馴染の顔。神経を逆撫でし、心を粟立たせるキライな丸い顔。僅かに残る昔の面影が、より一層憎々さを引き立てる。
 ギリ、と音を立てたのは矢を(つが)える弦か、それとも私の歯か。ザワザワと鳴動する夜の森のように、昏く深く閉ざされて行く。

「………………」

ヒュンッ カッ

 ……私は琉依にどうして欲しいのだろう。琉依がどうなって欲しいのだろう。昔の、私が大好きだった頃の琉依に戻って欲しいとは思う。それが最上の願い。あの頃の琉依と今の琉依では全くの別人だ。あんな琉依は見ていたくないし、到底許せる範囲のものではない。琉依だって、今のカッコ悪いオタクな自分よりも昔の輝いていた頃の自分の方がいいと思っているに決まっている。

「………………」

ヒュンッ カッ

 でもそれって……私の一方的な願望でしかない。確かにケガをしてもうバスケが出来なくなったという事情はある。が、今の自分を形作ったのはあくまで琉依本人だ。そこにどのような葛藤があったのか、苦悩があったのかは琉依本人にしか分からない。私が思っているのは、今の琉依を認められない反抗心から来る願望に過ぎない。

「………………」

ヒュンッ カッ

 一般論的に言えば、誰からも敬遠されるオタクな今よりも皆に好かれていたスポーツマンな昔の方が良いと思うのは当然の事だろう。誰だって、嫌われるより好かれたいのは当たり前で悪い事じゃない。……けど、それはあくまで一般論。そうは思わない人もいれば、自分のなりたい自分になれない人だって世の中にはいっぱいいる。簡単に変われるなら誰だって苦労なんかしない。

「………………」

ヒュンッ カッ

 なら……私は? 私はあの頃と変わっていない、あの頃理想としていた自分に成れていると、胸を張って言えるのか? 変わってしまった友人達を蔑んで『昔はこうじゃなかったのに』と嘆く私は、本当に自分だけは昔のままだと、自分だけは改悪していないと言い切ってしまっていいのか?

「………………」

ヒュンッ カッ

 違う。私は違う。私は琉依とは違う。今だってこうして、明後日に迫った大会に向けての練習を積んでいる。高校卒業した後も弓道を続けるかどうかは決めていないけど、次の大会は高校最後だ。ここでベストを尽くせなければ絶対に一生後悔する。

「………………」

ヒュンッ カッ    パキッ

 ……そうだ、私には弓道がある。私が私である為の大きな因子。弓を引いている私は紛れもなく『桜木梨羽』だ。8年、数え切れない程の回数と時間を積み重ね、色んな人に認められるくらいには成長した弓道家としての私。それは唯一無二のアイデンティティ。それを失くす事は私自身が選んで歩んで来た道のりを否定する事に他ならない。私は琉依とは違う。バスケを失くしてしまった琉依とは違う。……違う。

「………………」

ヒュンッ…………

「……………?」

 ふと、今までとの感触の違いに違和感を覚えて我に返る。目に映るのは二十本以上矢が刺さって最早体裁を成していない的と、的に届きさえせず芝生に転がっている矢が一本だけ。どうやら今の一射は打ち損なったらしい。……あれ、緩んじゃったかな? 少し集中を欠いていたみたいだ。反省反省。

「……ちょっと、この指どうしたのよ梨羽!?」

「………え?」

 射位に戻ろうとする私を部長のミミが血相変えて呼び止める。ああ、いたんだ、ミミ。声が大きいなぁ。藤堂とは上手く行ったの?

「え? じゃないわよ! 何呆けてんの! この指は痛くないのかって訊いてるのよ!!」

 ミミが私の右手を掴み上げる。そこには……



 私の指を真紅に染め上げる、奇妙な赤い液体が付着していた―――



「え? ……え?」

「中島クン、救急箱持って来て!! 大至急!!」「は、はい!!」「それより保健室に連れて行った方がいいんじゃ……」「うわっ、スゲー血が出てますよ先輩!!」「何でアンタは弓懸も着けずに弓引いてんのよ!! これじゃ爪割れて当たり前でしょ!?」「……どうしよう、桜木先輩が抜けたらウチの部、勝てっこないよぉ……」「バカっ! 今は大会の事なんて考えちゃダメだよ!!」

 部員達が慌ただしく私の周りを走り回る。……え、ちょ……ちょっと待ってよ……。私が抜けるって何の話? 皆何をそんなに焦っているの? だってこんなの痛くも痒くも……ちょっと手が汚れちゃっただけで………

 ワタシハ、マダイクラデモ、ユミヲヒケルッテバ……………

「とにかく、保健室に連れて行くから。ほら、ボケっとしてないでちゃんと着いて来て!!」



 思考が追い付いて来ないまま私は弓を取り上げられ、ミミに引き摺られるようにして弓道場を後にした―――――



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