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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

ここにこうしているワケ

作者:たくやんか
「フーッ!フーッ!フーッ!」

 薄暗い部屋に体を縮こませて座っている男がいる。息づかいは荒く、身震いをして、目は血走っている。何日も風呂に入ってないので、生臭い。伸び放題の髭と爪は動物のようだ。本当は切りたいし、整えたいのだが、今は事情があって、無理なのだ。

「俺は悪くない。悪くない。悪くない」

 睡眠もろくに取ってないので、思考があやふや。時々舟を漕いでいる。起きている時は目を異常な程にギョロりとさせているので、彼を見た人間は畏怖を感じるだろう。また、警戒心が高まっているので、物事に対する反応が、かなり、一般人とかけ離れている。気持ち悪い位に。ちょっと前までこんなんではなかった。もっと落ちついていた。

「アレだ。アレのせいで、俺は…ミスった」

 宮本隆徳。
 37歳。
 職業、健康食品の営業マン。

 そして、連続殺人犯。

 ☆

 彼の第一の殺人は20年前に遡る。
 当時、17歳だった彼は通っていた高校でいじめにあっていた。理由は太っているからということで。サッカー部に所属していたクラスのリーダー格だった園田明俊から、目立たない腹部への殴る蹴るの暴行を受けていた彼はある日、学校の教室に深夜呼び出された。そこにいたのは、同じクラスの佐藤智宏。彼と同じく園田に苛められていたおとなしい男だ。園田は彼らに約束事を持ち出した。

「夜のバトルクラブだ。戦って勝った方を苛めないと約束する。さあ、ファイトだ、ファイト!」

 彼ら二人は殴りあったが、決着がつかなかった。
 彼らを見て笑う園田を横目で見ると、宮本は佐藤を転がして、何度も何度も叩いた。よく見ると、右手に石を握りこんでいた。

 気がつけば佐藤は死んでいた。頭蓋骨が割れたのだ。脳ミソが見えた。瞳孔は開いていて、眼球の片方は潰れていた。
 これが宮本隆徳の第一の殺人。犠牲者は自分と同じ苛められっ子の佐藤智宏。殴打による撲殺だ。
 この時、宮本は殺人という味に目覚めた。

 宮本第二の殺人は、半年後。
 犠牲者は78歳の老人、丹沢久太郎。
 普段から周囲に嫌われているじいさんで、宮本も何度か嫌がらせを受けていた。この老人はたまたまその日、珍しく遠出をして帰ってきたところを殺された。宮本は駅内でたまたま出会った丹沢を階段から突き落とした。周囲の人間は、丹沢が足を滑らせて転がり落ちたと解釈した。よって事故死と判断された。
 宮本は罪に問われず、殺人を味わった。

 宮本第三の殺人は、かの園田明俊だ。
 佐藤の遺体を二人で校舎裏に埋めると、園田は宮本から距離を取った。卒業まで顔を会わせなかった二人は、最後に一度だけ会う。
 宮本は園田を拉致し、誰も来ない廃屋の柱に縛り付けると、彼を弄んだ。積年の恨みと快楽を込めて。じっくりじっくり丁寧に。何日もかけて。
 やがて、死に至った時には、園田の体には数十ヶ所の刺し傷。火傷の跡。欠損が残る。失血死という事になる。血の臭いが凄く、宮本は消臭剤を十本以上消費した。死体は埋めた。

 宿敵を葬った宮本の胸中は晴れ渡っていて、何度も何度も絶頂に達した。快楽型サイコパスの誕生だ。宮本はついでに自分の腹部を致命傷にならない程度に割き、自らの血液をナメて笑った。

「ハアハアハア!」

 だが、現在の宮本は苦しんでいる。

 ☆

 ここで、宮本のいる部屋の片隅にある絵画に注目してもらいたい。エドワード・ロドリー・パン作『笑う裸婦像』だ。
 この絵は実は曰くつきで、所持した者が、次々に叫びの声をあげる。夜な夜な絵の裸婦が絵から抜け出して歩き出すというのだ。ある時は、欧州で。ある時は、アジアで。そして、日本でも。徘徊する裸婦に会うと、裸婦は微笑みかけるらしいが、その笑顔を見た者は、狂気にとらわれるらしい。
 単なる噂話と思われていたそれだが、イングランドの豪商の一人が原因不明の暴れ形をして、一家全員を襲った事から真実味を増した。その時、死人が出なかったのは幸いだった。
 『笑う裸婦像』は社会の裏の方で人気が出て、取引も数多くされたが、今は何故か、宮本のいる部屋にある。

 ☆

 宮本第四の殺人は女性だ。
 猿渡瑠奈。宮本の最初の恋人だ。
 殺した理由は二つ。
 『結婚するタイプではない』と『彼女を永久に自分だけの者にしたかった』からだ。
 監禁し、殺すまでの間に彼女をいただいてみたが、いまいちだった。宮本は気づく。動いていてこその彼女だと。彼女の仕草に惚れたのだと。
 そこで山奥で、彼女を解放し、逃げ出すところを捕まえて、自らの手で絞め殺した。
 追いかける時に思ったのは、やはり彼女は最高だという事だ。最高の仕草だという事だ。
 死体を何かの手に触れられる事を怖れた彼は、埋める前に頑丈な鉄箱に入れ、あたかも棺桶のようにして、葬った。宮本の目に一筋の涙がこぼれた。

 宮本第五の殺人は、大学教授の鷲尾譲太。
 心理学を研究していて、犯罪者の気持ちが解ると言い、自身をどんな窮地に陥っても思考を落ちつかせる事が出来ると言った。興味がわいたので、ひとまず車で撥ねた後、自宅に持ち帰り、色々とやってみた。痛みに弱く、残念だったが、喉と口は何にもしてないので、話は聞けた。同情されたり、諭されたり、励まされたり、怒られたりした。この人は自分には無いものを持っている素晴らしい人だ。宮本は教授を尊敬した。人生の師を見つけたと思った。
 だから、最後は毒物によるショック死にした。
 天国に行ってくれるといいな。
 宮本は微笑んだ。
 死体は歩いて、十分の公園に埋めた。誰も気にしない。気がついたのは、御近所周りは夜誰も出ず、他人には一切干渉しないようだった。現代は悲しいな。そう宮本は思った。

 宮本第六の殺人は双子だった。
 男と女の双子だった。子供だった。年端もいかない幼子だった。
 教授に受けた教えに基づき、バリエーションを増やしてみようと考えた宮本は、小さな子供達が引率の先生に連れられて、外をお散歩している時に生卵を扱うように、そっと双子を拐っていった。何にも音をたてず、しかも、一瞬の間に車に詰め込んだ動作は誰にも気付かれなかった。双子がいなくなったのに先生が気づいたのは30分も後の事だ。
 教授の時と違い、子供は必要以上に騒ぐため、監禁場所は、海沿いの倉庫にした。めったな事では人が来ないこの場所は、自分が今まで使ってきた廃屋等と雰囲気が似ていて、とても使いやすかったと、そう感じた。
 顔ばれを避けるために、目隠し。声ばれしないためのアヒル声。お互いに名前を呼ばせて、安心感を与えた。
 この世には、生きている人間を使って、アートをする者がいると教授から聞かされたので、3日経った後、それを実行してみる事にした。
 女児を解体。そして、組み立ててみた。積み木のようにはいかず、なんだか酷いものになった。我ながら、これは最悪だ。全然駄目だ。アートな殺人犯が行うように、監禁場所から少し車で移動した後、誰かに見つかるように、夜の内に小舟にソレを乗せて流した。案の定、朝方になって目撃者の悲鳴と共に、ソレは見つかり、かくして宮本初のアートは御披露目となった。
 遠くから見ていたが、思っていたのと違った出来になったアートは、宮本を挫折させた。
 世の中の芸術家のなんと素晴らしい事か。職人芸だ。宮本は素直に感心し、同時に自分にアートは無理だと実感した。
 こんな事をしていては駄目だ。
 宮本は、倉庫に戻ると、残った男児を連れ出した。後の無さそうなホームレスのじい様を探すと、いくばくかの金を出した後に、話をして、男児を売った。もう、自分には必要の無いものだからだ。
 1日経って、このじい様は男児の家に誘拐による脅迫電話を入れた。勿論、身代金目的で。

 殺人犯宮本は、ここから3年間、殺しを止める。

 ☆

 現在の宮本の住処には、古代より伝えられる生け贄の人形がいる。『マスラ・ラ・マス』の人形だ。
 生け贄と称して、数多くの血を浴びているこの人形にも、ある曰くが付いている。
 所有者の家族が、謎の失踪。
 一家全員行方不明になる、というものである。
 ジョン・ライン・マーバルは、8月19日にカリフォルニア州で遺体で発見された。
 同日にニューヨークにいたにも関わらず。
 彼の家族は全員行方不明で、その理由は現在もわからない。
 また、このような事態はずっと続いていて、人形の所有者は、行方を眩ます。
 現在は、宮本の住処にある。

 ☆

 宮本第十から第十五の殺害は、彼が社会人になってからだ。
 家族を狙った。
 自分は何故人を殺すのだろう。
 そう考えながら、宮本は殺人を続けた。
 色んな殺し方をしてみた。
 人間の仕組みが分かってきた。
 まるで、医者のようだ。
 医者が怪我や病気を治すなら、自分は怪我や病気を起こしていく者だと理解した。
 自分はひょっとしたら、名医になれるかもしれない。
 宮本の胸に、夢や希望が生まれた。

 宮本第十六から第二十八の殺害は仲間と行った。
妙なもので長く続けていると、同じ種類の人間と出会う。彼らと語り合い、腕を競い合い、また語り合った。
 普段は、普通の生活をしている者から大金持ちに見るからに犯罪者まで、交流は深まった。
 宮本は友とは言わないが、同士を得たのだ。
 蜜月の時来たれり。

 ☆

 『邪霊が憑いた腕輪』。
 身につけると知らない内に邪霊に取り憑かれ、覚えのない行動をするもの。白目をむいた、その顔は海外からは悪魔憑きと呼ばれる。

 ☆

「では、契約完了です」

 安達絵里は、この春に大学生になる。
 そして、かねてより希望していた独り暮らしを始める。物件を見つけるのに苦労したが、ようやく見つけた。

 アパートの2階の部屋だ。
 住人は一室を除いて埋まっていて、なんとか入れたというところだ。隣に住人はいるか聞くと、「いません」と言われた。引っ越しの品は必要無さそうだ。

 念願の独り暮らしが始まるのだ。

「では、裏野ハイツの203号室になります」

 ☆

 宮本は逃げ込んできた。
 今まで見つからず、殺害を繰り返してきた宮本がある日手に入れた腕輪。これを身につけている時に記憶がない事があった。何かに乗っ取られたかのように。そして、先日。

 気がつけば、宮本は公衆の面前で人を殺していた。記憶がない。気づけば、こんな事態に。
 慌てて逃走した宮本を救ったのは殺人の同士。
 潜伏場所を貰えた。
 人が住んでいる事がばれてはいけない。
 電気もつけられず、宮本はひたすら闇と時間と戦った。
「ここの住人は変だ」
 音だけで、宮本はここの異常を感じ取っている。
 爪を噛んで気をまぎらわす。

 不意に隣の部屋から物音がする。新しい住人だ。
 若い女性のようだ。
 宮本の精神状態は限界を迎えた。

 裏野ハイツ202号室。

 そこが、宮本の潜伏先。

 宮本は、ゆっくりと二本の足で立ち上がった。
 

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