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外伝 凱旋①

――これは魔王を倒した直後、領地に戻ったエスト達のお話です。


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魔王を倒し邪神を封印した俺達一行は、体が完全に回復してから魔族領を後にした。それほど日が経っていないのに久しぶりに帰ってきたような錯覚に陥るグラン・ソラス城や町並みは、俺達が戦いに赴いた時と全く変わっていない。違いがあるとすれば城壁の周りにある無数の魔物の死骸や、何か巨大な力で抉られたような水堀や地面だけだ。一体何があったのか知らないが、街に被害が出てい無いようで取りあえず安心できた。


「エスト様! お帰りなさいませ!」

「エスト! 戻ったのか!」


突如城内に現れた俺達を発見したルシノアとアミルが慌てたように駆け寄って来る。


「ただいま。二人とも怪我は無いようだな」

「俺達は大丈夫だ。街の住民にも被害はない。それより、お前達がここに帰って来たって事は……」

「ああ、邪神は封印できた。魔王ネメシスも倒したし、もう奴等の負けは決まりだろう」


俺の言葉に、アミルやルシノアだけでなく、周囲に居た人々が一斉に歓声を上げる。興奮のあまり叫び出す者や意味不明に走り回る者、抱き合って喜ぶ者や涙を流す者など反応は様々だ。叫びながら外に出ていった者達も居たので、領内に情報が知れ渡るのも時間の問題だろう。


「やったか! 流石だエスト! お前達は古の勇者と並ぶ英雄になったな!」

「もはやエスト様は大陸に並ぶ者の無い英雄となられました! 貴方に仕える事が出来て、私は本当に幸せ者です!」


興奮したアミルにバシバシと背中を叩かれ、ルシノアは普段の冷静さを忘れたかのように涙ぐんでいた。まったく、二人とも興奮しすぎだな。


「二人とも、嬉しいのはわかるがその辺にしとこう。勝ったとは言えまだ仕事が山積みだからな。祝勝会は全部片付いて落ち着いてからにしようぜ」


敵の親玉は倒しても、まだ領内をうろついている魔物が居るかも知れないし、侵入してきた魔族がそのまま潜伏する可能性も捨てきれないので、まだまだ警戒は必要だった。


「とりあえず、アミルは領内の巡回を強化しろ。敵の生き残りや、混乱に乗じて野党などがうろつくかも知れないからな。ルシノアは被害を受けた者達の情報をまとめて、決められた手当を支給する事。住居を失った者には臨時で仮設住宅を建てるから、ある程度情報が入ったら俺に報告してくれ」

「わかった!」

「承知しました」


俺の言葉に二人は表情を引き締め直して、いそいそとこの場を後にした。今や二人ともこの領地の原動力となっている。二人が動き始めれば、自然と下の者もついてくるだろう。


「さあ、俺達は俺達で一休みしようか。流石に疲れた」

「今までで一番厳しい戦いでしたからね。じゃあ私はお風呂の準備をしてきますね」

「シャリー、ソリアに会って来る!」

「ふむ、では休む前に食事でもしようか。レヴィア、一緒にどうだ?」

「もちろん付き合うわ! ドランもおいで!」

「グアッ!」


思い思いに散っていく仲間を見送り、俺はその場で精一杯背伸びをすると同時に、大きな欠伸を漏らした。この何でもない日常を守る事が出来て、心底ホッとしていた。わざわざ危険な魔族領にまで足を運んだ甲斐があったと言うものだ。


------


翌日以降、俺達一行は旅の疲れを癒す間もなく、領内の仕事に駆り出される事になった。当面の仕事は大量に残された魔物の死骸を焼却する事だ。グラン・ソラス城の周囲にはリーベさんのブレスで切り刻まれ、アイギス城の周囲ではゴーレムに踏み潰された魔物の死骸が溢れかえっているため、急いで焼いてしまわなければならない。放っておいたらアンデッド化して更なる被害の拡大が予想されたので、ゆっくり休んでいる暇など無かったと言う訳だ。


「すみませんエスト様。帰って来たばかりなのに手伝わせてしまって……」

「気にしなくていいよ。それより街が無事でよかったじゃないか。リセ達も住民の避難誘導を完璧にこなしてくれたみたいだし、感謝してるよ」

「そんな! もったいないお言葉です!」


何やら一人で感激しているリセを、彼女の部下達が生暖かく見守っている。どうやら彼女がトリップするのはいつもの事らしい。そんな部下達は自分の手が汚れるのも構わず、汗だくになりながら周囲から魔物の死骸を一か所に集める作業に追われている。グラン・ソラス城アイギス城もかなり増員しているとは言え、万に近い魔物の死骸は簡単に集まらないだろう。そうやって苦労した魔物の死骸を火炎魔法で焼却している俺に、リセが話しかけて来る。


「そう言えばエスト様、この度の戦勝祝いにグリトニルの王城に招待されているんでしたよね?」

「耳が早いな。一月後の予定だけど、各国のお偉いさんが集まって俺達パーティーを労ってくれるらしいよ」

「と言う事は、いよいよ独立が決まるんですね。楽しみです!」

「退屈な式典になりそうだから、俺としては遠慮したいんだけどね……」


式典には対策会議に出ていた各国の王達が出席する予定だった。近場はともかく、エレーミアほど遠方の地では、今頃から出発していないと間に合わない計算になる。王様家業も楽ではないんだろうなと思いつつ、俺は新たに運ばれてきた死骸の山に火を放つのだった。

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