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外伝 トート④

「トート! 今までどこにいやがった! 水は汲んで来たんだろうな――って、お前、その肩に止まってるのは……」


案の定、野営地に戻ったトートを待っていたのは隊長の叱責だった。いつものように適当な理由で彼を殴ろうと拳を振り上げた隊長は、肩の上でくつろいでいるラガンの姿を見て動きを止める。


「コイツの名はラガン。さっき怪我してるとこを俺が拾って治してやったんですよ」


妙な拾い物をしたと自慢気に話すトートと対照的に、隊長や取り巻きだけでなく他の隊員までラガンを見たまま固まっていた。いつもと違ったその反応に訝しげにするトートの眼前で、隊長を除く全ての隊員全がその場に膝をついた。その様子を隊長は歯噛みしながら黙って見ていた。


「な、なんだ?」

「幼竜とは言え、ドラゴンを配下に置いた者は無条件で第二階級に引き上げられる……つまり、現時点でお前がこの部隊の最上位の階級にあるって事だ」


魔族領は血筋による身分の差がない代わりに、各自の能力によって階級分けがされている。一般的な魔族は無階級に属し、雑兵などの軍属が第四級、そして部隊の隊長格となる魔族は第三級だ。つまり今のトートは隊長の一階級上の身分になったと言う訳だ。


隊長の話と隊員達の態度で、座学で何となく聞き流していた階級制度を思い出したトートはその顔を嫌らしく歪め、余裕を持った態度で隊長の目の前まで歩くと、いきなり腕を振り抜いてその腹に拳をめり込ませた。


「ぐぼっ!」


不意の一撃をまともにくらった隊長はなす術もなく地面に崩れ落ち、胃の中身を盛大にぶちまける。苦しみに喘ぐ彼を冷たい目で見下ろし、トートはその顔を容赦なく踏みつけた。


「今までよくも好き勝手やってくれたなあオイ? もちろんこんな程度で済むと思ってないよな?」

「げほっ……す、すいませ――」


何か言いかけた隊長だったが、トートの放った蹴りを腹部にくらい中断させられた。その光景を震えながら見ていた人物がコソコソ身を隠そうとした途端、トートの鋭い声が響く。


「おいお前等! そいつをここに連れて来い。散々いたぶってくれた礼をしなきゃならんのでな」

「ひっ! た、助けてくれ!」


咄嗟に逃げ出そうとした取り巻きの魔族は一斉に飛び掛かって来た他の隊員達に羽交い絞めにされ、ジタバタと暴れるのも構わずにトートの前へと引きずり出された。他の隊員とてトートが入隊する前に散々いびられてきた連中だ。隊長やその取り巻きに対する恨みは深い。そんな彼等が助けを求める声を無視するのは当然の事だった。


乱暴に投げ出された取り巻きの魔族は腹を抱えて苦しむ隊長の姿を目にすると、薄ら笑いを浮かべてトートの足にすがりつく。


「さ、流石はトート様! まさかドラゴンを配下に引き入れるなんて! 俺はトート様ならいつかデカい事を成し遂げると思ってたんですよ!」


靴の裏をベロベロと舐めそうな勢いで媚びへつらう手のひら返しの速さに戦慄すらしたトートだったが、すぐさま自らの体にまとわりついて来る魔族の顔面に蹴りを叩き込む。鼻血や涙、折れた歯などを撒き散らしながら吹き飛んだ魔族は、折り重なるように苦しむ隊長の上に倒れ込んだ。


「今更媚びたところで遅いんだよ。覚悟しとけよ。今までいびられた分、死んだ方がマシだと思えるぐらいにこき使ってやるからな」


その言葉に顔を青くする隊長とその取り巻き。そんな彼等の表情が愉快だったのか、トートは一人大笑いしていた。まったくの偶然とは言え、たまたま助けたドラゴンのおかげで一気に運が開けたのだ。ちまちまと努力する必要もなく高みに上り詰める事が出来て、トートは有頂天になっていた。


(やはり俺は特別な存在だ! ラガンを手に入れる事が出来たのも、この世界の神が俺に力を貸したからに違いない。よし、この調子で魔王の地位まで上り詰めてやるぜ!)


こうして、トートは魔族領での出世街道を歩み始める事になる。その先に待つのは栄光か破滅か、それは神のみぞ知る事だった。

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