ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
飛鳥1(4月14日、3)


  三

「飛鳥様、雅です。ここを開けてくださいな」
 屋上に続くドアの向こうから涼やかな声がした。その声の高さからして、女である事は確かだった。うっすらとその影が曇りガラスの窓に映っている。
 鮫島が、今度は声に出して笑った。
「お嬢様がお呼びです、飛鳥様」
 その切れ長の目がさらに細くなる。皮肉の似合うというか、こうも自然な形で「赦される」ヤツもそう多くは存在しないだろう。
「うるせぇよ」
 俺は眉間にしわを寄せて、軽く息をつく。
その後鮫島は、タバコを地面に落として踏み潰すと、軽く助走した後、正方形に地面から突出した「ここへ続くドアを持つコンクリート」の上に、ほとんど音も立てず二歩で飛び乗った。横に付いた手すりを利用してこそいるものの、相変わらずサルのようなやつだと思う。
 俺は左のポケットに手を突っ込んだ。シャリ、と金属の擦れ合う音がする。出してみると鍵と一緒に百円玉が二枚出てきた。いつだったか入れたまま出すのを忘れていたようだ。とはいえ、なんだか少し得した気分になる。その後鍵だけを手元に残し、小銭をしまうと、ドアの鍵を開けた。
 
 そこにはやたら目を輝かせた女がいた。長いまつげがキレイに上がっていて、もともと大きな目をさらに大きくしている。スッとのびた鼻筋、細いあご。何より口唇の左下にポツリと存在するホクロが、少女をなんとも艶めかしく見せていた。パッと見幼く思えてしまいがちな造作を、そのホクロがうまくカバーしていたと言えるかもしれない。
 以前鮫島がふざけてそれを「エロボクロ」と呼んでいたのを思い出す。
「どうした。授業はいいのか?」
 午後三時を回ったところ。日はまだ高いが、何となく夕方が近づいて来ている。常なら五限の時間帯だ。
「保健室行くって言って、サボっちゃいました」
 満面の笑みで鈴汝は言った。悪びれた様子はまるでない。その唇が形を変えるのを見ながら、俺は小さくため息をつく。
「だめじゃねぇの、生徒会長」
「まだ書記ですよ。会長の引継ぎは五月の頭なんです」
 視線の先を残し、日の元に出ながら鈴汝は言った。香水のいい匂いが鼻をかすめる。
 うちの高校の生徒会は、受験を控えた三回生が早々と引継ぎをして、代わりに二回生が中心になる。鈴汝は今年二回生だ。一回生の時の手柄、それに圧倒的な人望を集めて次期生徒会長に抜擢された。
「うん、いい天気」
 バンザイして、全身にその光を受ける。光合成中の植物はきっとあんなんなんだろうな、とぼんやり考えた。何だそら。

 鈴汝雅とは去年知り合った。たまたま通りかかった先で、チンピラっぽいのにからまれていたのを助けたのがきっかけだった。別に偽善者とか正義のヒーローとかを気取っている訳ではない。ただ、
「飛鳥様、タバコはゴミ箱にちゃんと捨ててくださいね。基本吸ってはダメですけど」
 手すりのところまで行って足元に潰されたままになっていたタバコを拾い上げると、鈴汝はメッ、と軽くこっちをにらんだ。
「あぁ、悪い」
 吸っていたのは鮫島だが、別に誤解を解く必要性が感じられず、俺は両手を上げてそう言った。ちなみに捨てるなら、ゴミ箱ではなく灰皿の方がいい。火事にでもなったら大変だ。なんてことも面倒なので言わないでおいた。
 俺の様子を見て満足したようだ。鈴汝は太陽の光を受けてニッコリと笑った。


先日、主人公の名前の読み方を教えて欲しいとのご質問を受け付けましたので、ここで載せさせていただきます。
草進真琴、これで「そうしんまこと」と読みます。
分かりにくくてすいませんでした。ちなみに鈴汝雅、これで「すずなみやび」です。
コメントうれしかったです。えへへ。ありがとうございました。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。