飛鳥1(4月14日、2)
二
「なぁ、これからどうする?」
細い視線が自分に向かって伸びてくる。その一部は隠れてしまって見えないはずだが、鮫島勤の目はまっすぐ俺の頬を射ている。
鮫島の肌は、太陽の下にいるにも関わらず青白く光を反射していた。その薄い唇でタバコを挟む。火をつける際、顔に近づけた手の甲には、はっきりと血管が浮き出ていた。少しゆるめの学ラン。特にどこが長いというわけでもないのに、やけにそれがでかく見えるのは、その異常なほどに細い手首による効果なのだろう。さらり、さらりとその髪が肩の上で揺れる。
「ああ」
風がやわらかい。俺は青空から視線を外さずに応えた。誰が聞いても生返事だと分かる声だった。薄い雲が所々に浮かんで見える。その一つ一つにガキがフォークを刺して遊んだような点々が付いている。南のもっと向こうの空には、魚というよりもどっかの国の形をしたようなうろこ雲がどっしりと浮いていた。
セブンスター独特の匂いがする。目の前を、形を持たない白が無遠慮に横切っていく。俺はゆっくりと息をついた。
誰もいない校舎の屋上は、俺達の「拠点」だった。基本立ち入り禁止だが、俺達に至っては、ちょっくら鍵をお借りして三人分スペアキーを作り、自主的に立ち入りを許可した。
北の棟の西半分(職員室とか理科室といった類の教室の入っている方の棟)東半分は柵があって行けなくなっているが、別に行く必要もない。これだけの広さがあれば何の不自由もなかった。
「あいつが来てから考えればいい」
「高崎、今日サボりらしいよ。なんでも大事な用なんだとか」
高崎聡は中学が一緒だった。無駄にガタイのいい体をしていて、声もでかい。あと料理が得意らしい。あれだ。一言で表せば「気のいいおっさん」別に誰も実年齢より老けているなんて口にしていない。
「あいつが?」
うわの空だった意識が隣にいる鮫島の方を向く。鮫島は、片手で鼻と口の周りを覆うようにしてタバコを挟むと、唇からそれを離した。そうして煙を吐きながら、その口の右端を少しだけ浮かせる。
「一体何の用だろうね」
そこには「俺達に内緒で」というニュアンスが含まれていた。
俺と高崎は中学が一緒で、高崎と鮫島は高校に入って二年間クラスが一緒で、鮫島と俺は出会いこそケンカから始まったものの、次第に仲良くなった。(あれだ。拳で分かり合ったってやつ)
かれこれ三人で行動するようになって一年半が経つ。初めて会った時坊ちゃん刈りだった鮫島の髪は、今や肩の上でさらさらと行ったり来たりの運動をするほど生意気になった。前髪は長いくせに、両の目だけうまくよける形になっていて、邪魔になっていない。
「あぁ」
一瞬戻った気が、吸い込まれるように再び青空に舞い上がろうとする。その時だった。
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