雅4(7月26日、4)
四
元いた××神社まで戻ると、イカ焼きには草が乗っかり、砂がかかってしまい、とても食べられるようなものではなくなっていた。りんご飴も袋の上から潰されて、見るも無残な姿に変わり果てていた。りんご飴はそれでもいけるかな、と思ったけれど、袋自体砂まみれになってしまっていたため、水島が「やめておいて下さい」と言った。その後、「もう一つ買ってくるんで、ここにいて下さい」と付け加える。
あたしはその背中を見送ってから、改めてついさっき起こったことを思い出して背筋が寒くなった。あの時もし運よく鮫島先輩が見つけてくれなかったら、そう考えただけで恐ろしくなる。そうして同時に、鮫島先輩は無事だろうかと考える。相手はがっしりした、体格のいい男だった。細い鮫島先輩がかなう相手なのだろうか。
そわそわと指先で膝を叩く。キョロキョロと辺りを見回す。
どうしよう。あたしのせいで怪我をしたら。あたしだけ助かって。
無数の小さな花火が打ち上げられていく。パラパラパラと響く音。さすが一番花火に近いブロックだけある。頭上から火の粉が降ってくるようだ。それは帰ってきた水島の白い頬を、ピンクや緑に照らした。
水島は黙って持っていた袋を渡すと、あたしの横に静かに腰を下ろす。袋の中には、緑色をしたりんご飴が入っていた。
「緑・・・・・・」
「赤の方がよかったですか? 一本だけ置いてあったんで、珍しいと思ってこっちにしました」
水島の口調が常より若干強い。「ううん、ありがと」と言う。言わされた感は否めない。
まだ、怒ってる。
水島は後ろに手をついて、花火を見上げている。
パラパラと、花が夜空に束になって咲く。咲いては散り、咲いては散り、見ようによってはそれ自体、ひとつの生き物のようにも思える。そうしてそれは、生き物すべての一生の投影のようにも感じた。
「まだ、怒ってる?」
わざと、花火の打ち上がっているときに声に出した。でも水島は「別に怒ってませんよ」と、ちゃんと聞き取って、返事をした。
「あなたがちゃんとここにいて下されば、いいんです」
声の調子は変わらない。花火を見上げながらそう言う。目は、合わせない。この調子だと、鮫島先輩の様子を見てきたいと言っても無駄だろう。
「食べないんですか?」
そう催促されて、まだビニール袋をかぶったままのりんご飴に目を落とす。
「た、食べるわよ」
そう言って袋を外し、舐めてみる。
甘い。そうそう。りんご飴の、この味。
それは花火の光を受けて、周りの飴の部分が虹色に反射する。そうしてキラキラと、まるで一つの宝石のように輝く。
「水島」
手元に焦点を合わせたまま、聞いてみる。
「お手洗い、どこにあるの?」
水島は大きく目を見開いたまま、固まった。
「お手洗い、ですか?」
ほとんど表情は変化していないが、動揺しているのが分かった。
「ちょっと探してくるわ」
そう言って立ち上がると、水島も立ち上がろうとした。それを制する。
「嫌。一緒に来てほしくないの」
水島は一瞬思考をめぐらす。
「・・・・・・何かあったらどうするんですか」
「大丈夫よ。今度はぶつからないように歩いていくわ」
「そうじゃなくても・・・・・・」
「一人で行きたいって言ってるの」
水島は黙り込む。再び大きな花火が上がる。その光が水島の不安げな顔を照らす。
「大丈夫。ちゃんと戻ってくるわ」
そう言い残すと、りんご飴を預けて、歩き始めた。背中に水島の視線を強く感じる。角を曲がりそれが消えると、あたしは再び駆け出した。
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