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これ、これから回想シーンに入るときに使いますね。
実際流れている時間と違うのでご注意願います。
飛鳥1(4月14日、1)

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  一

 俺を覆ったのは、さらさらと流れる漆黒の髪だった。
 その小さな背中を前に、変わらないはずの視界が大幅にその世界を縮める。
 包まれ、完全に外敵から保護される、記憶。それは生まれてこの方、ついぞ知りうることのなかったオブラートだった。
 かったるくてしょうがなかった授業。もっと真面目に受けておけばよかったと思ったのはこの時が初めてだ。
「これ」をなんという。
 なんとかの、羽の、

共働き自体、別に悪いことだとは思わない。俺の周りにも共働きの親を持つクラスメイトは何人もいる。ただ、何が不満かと言えば、それは俺や俺たちに対して裂く時間のなさだったのかもしれない。
 今だからこそ、落ち着いて考えられるようになったが、前はその感情をうまく表現できないイライラにいつもつきまとわれていた。
「構って欲しかった」だなんて言いたくないが、俺の中に他のボキャブラリーの存在は期待出来そうもない。それにそのこと自体、ただ体裁を気にしているだけであって、心情はそっくりそのまま言い当てていた。
 幼かった俺は、感情がひねた形で走り出していたことにすら気付かなかった。
「飛鳥、ここにお金置いとくから。何か買って食べなさい」
テーブルの上に野口なんとかが印刷された紙切れ三枚。
「今日も遅くなると思うから」
ウェーブのかかった髪が、下を向いたときにその横顔を隠す。後ろ手にヒールを履く。カツ、カツ、と耳に蓄積されていく例の音。
「楓と礼奈をお願いね」
視界にそのまま縁取られた絵画。狭い廊下の先が開けている。磨りガラスのドアを通り抜けてくる光と鳥の声。左手には額縁に入れられた花瓶と、黄色の花の絵。その絵の背景は何故だかグレー。右手に本物の花瓶。そして母親の後姿。
それは反復によって刷り込まれた一枚の絵。まぶたの裏にしっかりと焼き付けられた、確かな絵画。
俺は流れた髪の奥にある目を、その目を、ただそれだけを求めていた。ただ一瞬、「行ってくるわね」と言う時、こっちを向いてくれたらそれだけでよかった。
 ドアを開ける。母は出かけて行った。一瞬直に浴びる日光。視界が明順応する。もしかしたらこの時振り返っていたかもしれない。そんな期待も十五回目の冬、俺の中で静かに息絶えた。

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