聖3(6月24日、5)
五
外が薄暗くなってきた。同時に湿度が上がるが、もうこの時期になると「寒い」ではなく「涼しい」になる。下の階から歌声が聞こえてくる。生徒会室の真下にある音楽室からだ。合唱ではなく、二人か三人が交代に歌っているので、部活動ではなく友人間の趣味なのだろう。
「もうひとつ、いいこと教えてやる」
僕は一瞬巡った意識を、再びその細い体に戻す。
「だから雅ちゃんは、おそらく火州しか見ない」
それは、目の前の彼にとってどうか知らないが、僕にとって特に重要な情報ではなかった。「そうなんですか」と答える。
その反応の薄さに、その人は手のひらに乗せていたあごを浮かせ、目を丸くした。
「あれ、お前雅ちゃん好きなんじゃないの?」
「何でそう思うんですか?」
視線を窓の外にやる。
「なんとなく。だって俺、保健室であったこと全部知ってるもん。最近ちょっと火州の様子おかしかったから、あん時高崎と一緒にあと付けてって、あの草進って子先回りして中庭側の窓の外に隠れてた」
しれっと言う。
「だから雅ちゃんがちょっとまずい感じになった時、あわてて出て行こうと思ったんだけど、お前現れたもんだから。でも」
視線を変えないで顔を動かす。
「逃げるのはあの場合どうかな。あの草進って子どうするつもりだったんだよ」
右下を向く。
「会長を帰してから、戻ってくるつもりでした」
「そんな、帰しに行ったなんてこと知らない側としたら、見捨てられたと思ってそのまま帰ると思うよ」
「別に遠くに行ってくれればよかったんです。僕自身、ずっと付いていかなくても。最悪、」
握っている手を開く。
「教室の外へ追い出してしまうだけでもよかった・・・・・・」
視線は下げたままだ。その様子を見ていたその人は、僕をじっと見据えて言う。
「つまり、お前がかぶるつもりだったんだな?」
僕はじっとしていた。何も答えないことは、すなわち肯定を意味していた。その人は両腕を上に伸ばして伸びをしながら「やっぱりな」と言った。ついでに「あああ」とあくびもする。
「何がやっぱりなんですか」と聞くと、「だって俺でもそうしたもん」と返ってきた。
もう少しうまくやったけど、とも言った。
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