ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
真琴18(4月18日、5)


  五

 再び静まりかえる空間。あたしは持っていた人形をそっと下ろす。
「何、か、悪い。その、あいつが・・・・・・」
 そうして舌打ちすると、うなだれる。その様子が何だかおかしくて、気付かれないようにそっと笑う。
「いえ」
 一時音無しくなったかに思えた髪色は、一ヶ月経った今、元に戻っていた。
「あ、いや、これは向こうの部活で何日か外に出たから痛んだだけで」
「え、まだ入学していないのに、ですか?」
 その頬が照れくさそうに緩む。
「この間引越しの関係で軽く見に行ってみたら引きずりこまれた」
 一瞬ポカンとする。何というウェルカムな部活だろう。
「そうなんですか。部活は何をされているんですか?」
 その目がさまよう。照れ隠しにかその口元を覆うと、つぶやくように口にする。
「サッカー」
「え?」
「サッカー。元々、中学ん時にやってたんだ」
 それまた意外な過去をお持ちで。
「どうして高校では続けられなかったんですか?」
「いや、入ったには入ったんだが、上とソリが合わんくて」
 その頭部に目をやる。何となく分かる気がした。でも
「いや、本格的に髪染めたのは部活やめた後だ。一年のくせにいきなりスタメンになったからって叩かれた。ケンカもよくしてたから、真面目にやってきた人間には我慢出来なかったらしい」
 目を見開く。そうして知らなかった部分が見えてくる。
「ポジションは、どこをされていたんですか?」
 一瞬ためらったようだが、その後はっきり口にする。
「ゴールキーパー、だ」
 その人はそうして後頭部をかくと、向こうを向いた。そのあぐらをかいた膝が落ちつかなげにゆらゆらと揺れる。まるで猫じゃらしだ。その様子が面白くて、しばらくじっと見つめる。
「・・・・・・と」
 その後その人は再び頭をかくと、うつむいた。
「何か、何て言ったところで、変な風にしか聞こえんかもしれないが」
 その耳が染まる。火は自分で自分を焦がす。その熱が、溢れて伝わる。
「その、あれだ」
 そうしてごく小さな声で「こっちに来い」と言った。しかしこっちに来るも何も、あたし自身こうして「ここ」にいる。「こっち」という以上「あっち」にいなければいけないのであって、それ程の距離を感じなかった。ただ、あえて感じないようにしていた部分もあったのかもしれない。
 身体を強張らせると「え」と口にして戸惑う。その手が苛立ち気に動くと、あたしの手首をとった。目が、合う。




+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。