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雅3(6月20日、22日、3)


  三

 あたしはその口から明かされていく、手の内にあった事実に驚かされて言葉が出ない。
 そうして胸がざわざわする。水島が目を開く。そうしてスッ、とこっちに向き直ると「会長、エイズって知ってますか?」と口にした。
 こめかみに力が入る。聞いたことはある。授業とかで、思春期の学生にとって性行為の興味本位で話題にするような、そんな、病気。こくり、とうなずく。
「彼女は、エイズ感染者でした」
 根拠もなく、ただ漠然とどこか別の世界の人々の話だと思って聞いていた話は、あたしが知らないだけで事実、身近で起こっていた。
「後天的なものではありません。生まれた瞬間から彼女は、いつ発病するか分からない恐怖と隣りあわせで生きてきました」
「・・・・・・」
「僕がそれを知ったのは、付き合うと決めた後でした。彼女はいつか言わなければならないと分かっていながらも、結局今まで言い出せなかったのだと言いました。当時僕は今より幼く、彼女の言っていることがいまいち現実味を帯びなかったのを覚えています。でも」
 水島は息を吸う。
「それでも僕は、彼女と一緒にいたいと思いました」
 息がし辛い。圧迫されているのは胸本体か、それとも
「その子に・・・・・・」
 あたしはつぶやくように唇を動かす。その口元に視線を落とした後、再び目を合わせて水島は言った。
「似ているんです。あなたが。とても」
 その目はあたしではなく、あたしを突き抜けて遠い誰かを見つめていた。
 その恍惚とした表情。
 あたしは手のひらを湿らせている汗が、その温度は変わっていないにも関わらず、冷えていくのを感じた。
「だから、例えあなたが悪魔の心を持っていようと、他の誰かを好きになろうと、僕があなたを護る」
「・・・・・・」
「今度こそ」
 水島の目があたしに焦点を結ぶ。ようやく「あたし」を見る。
「さぁ」
 その表情が再び元の仏頂面に戻る。仮面のようだ、と思った。
「行きましょうか」
 あたしは見えない何かに抑えつけられて、抵抗できずに引きずられる。突然の衝撃を受けた脳が反応しきれない。心臓の音だけが、やけにうるさい。あたしは、全身に送られているはずの信号が、理解できない。
 眉の辺りを、二本の指先で軽く押さえる。その目の焦点は、合わない。




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