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雅3(6月20日、22日、2)


  二

「あんた、あたしのこと好きんなったならやめといた方がいいわよ」
「帰りましょう」と言ってあたしの手を引き、廊下に出た水島に言う。
「ほんとに。その前に何で保健室にいるのが分かったの? あんたストーカー?」
 水島は手を握り締めたまま、体の左半分をこっちに向けて立ち止まる。そうして例の目をますぐ向けて、「勘違いしないで下さい」と言った。
「保健室の前にあるそこの窓から、たまたま見えたんです。僕はちょうどその外にある部室の前でご飯を食べてましたから」
 そうして、保健室の向かいにある窓を指差す。その後「草進さんはクラスメイトです」と付け加える。
 午後二時を回ったところ。廊下にはまるで人気がない。西の端にある職員室でさえも、異常なほど静か。そういえば今日午後、職員会議があったか。水島は続ける。
「それと、僕が好きになるとしたら、それはあなたの外見だけですから」
 当然のようにのたまうその態度に、カチンときて言い返す。
「は? 聞いてないわよそんなこと。そもそも会って間もないのにそれ以外で何を基準に好きになるっていうのよ。あたしは」
 一音一音を噛み締めるように放つ。
「男が、大嫌いなの」

 一瞬、時が軋んで止まる。
 それでも水島は表情を変えない。充分間をとって、「そうですか」と口にすると「一向に構いません」と穏やかに笑った。それが本当に穏やかなものだったのか、それとも冷ややかなものだったのかは、区別しがたい。水島は視線を体の向いている方向に移すと、焦点の合っているのか分からない、恍惚な表情を浮かべた。
「失礼のないよう、事情を説明しましょう」
 廊下のワックスの匂いを、強く感じる。水島は続けた。
「僕には一年前彼女がいました。当時中学二年生の冬でした。僕は付き合うのが初めてで、それこそ本当に何をするにしてもどこに行くにしても、いつもどこか滑稽なものでした。それでも、僕は僕なりに彼女を精一杯愛しました」
 その目がすうっと細くなる。手がひどく熱を持っている。汗はどちらのものか分からない。
「でも彼女は」
 水島は、目を閉じる。そして、静かに息を吐くと同時に紡ぐ。
「その一ヵ月後、亡くなりました。本当に一瞬のことでした」




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