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雅18(3月13日、24日、5)


  五

 三月も終わりに差し掛かる。春休みに入って一週間、早くも例の事件から一ヶ月が経とうとしている。そうしてこの日もあたしは退院祝いのために市内の病院を訪れた。
 実際、飛鳥様も鮫島先輩もまだその多くの患部が治癒していないにも関わらず、既に常人並に動き回っていた。あたしは具合を尋ねて手短に挨拶を済ませると、いつも通り病室を出る。しかしこの日の帰り際、いつもと違って病院の入り口に大きめの紙袋を持った微かに覚えのある影を見つけた。
「・・・・・・あ」
 あたしは首筋の辺りから順に身体を強張らせると、相手に合わせて眼光を強める。
「こんにちは。ちょっといいかしら」
 そうして言い終わるより先に歩き始めたその後を追う。心臓がどくん、と鳴った。それでも背筋は精一杯伸ばしておく。あたしだけの問題ではないだけに、特に。
 病院を出て左手に折れ、医者の使用する駐車場を抜けるとさらに進む。その先にはコの字型に花壇を巡らした中庭があった。地面に敷き詰められた芝生から青々とした匂いが立ち上る。中央にも正方形をかたどった花壇がある。その時ようやく、その人はその手前にあるベンチに向かって歩いているのだということに気付く。
「どうぞ」
 放たれる言葉以上に、声の調子に圧倒されて従う。あたしはその左側に腰掛けると、持っていたバッグを置いた。過去に飛鳥様の彼女であると名乗ったその女性は、足を組むとその上に肘をついた。
 その顔は、この間とは打って変わってきっちり化粧がなされている。戦闘体制が整っていると言っても良いだろう。
「飛鳥の調子はどう?」
 前置きも何もなく単刀直入にそう尋ねて、視線の先を向こう側の花壇にやる。あたしは背筋を伸ばしたまま「順調に回復してきています」と応えると、ふと考えた。
 この人は、お見舞いに来ていないということ? 今日退院って知らないってこと?
「そう」
 軽い感じでそう応えると、その人は聞いた割に大した興味もなさそうに自分の爪に目を落とした。そのささくれをいじる。あたしは完全に受身になってしまわぬように、先回りして質問を繰り出した。
「飛鳥様に、何か?」
 次の瞬間、その人は強い一瞥をよこすと、なぁにそれ、と言った。あたしにとってなじんだ音だけに、一瞬何のことを言っているのか分からなかったが、すぐに呼び方のことを言っているのだと思い当たる。
「いえ」
「どの立場から言っているの? 飛鳥に用は、あるわよ。たくさんね」
 あたしの言い方が芸能人のサポートをするマネージャーのように届いたのだろう。その人は赤い唇をせわしなく開閉させると、強く視線を残した。
「そもそもあなた、誰なのよ。飛鳥に何か関係があるの?」
 相変わらず大きく音を立てる心臓の傍ら、何か別の不穏な脈を感じて思わず口をつぐむ。それは過去にどこかで感じたことのある思いだった。
〈飛鳥様は渡さないわ。絶対〉




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