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飛鳥3(6月20日、5)


  五

 常に見られないその目に何かを感じて、俺はようやく頭を切り替えた。
「あぁ、鈴汝・・・・・・」
 その瞬間、さっきの嘔気のような胸を突き上げる激しい怒りが俺を包んだ。ここしばらく感じることのなかった種類の感情だ。
「あいつ一体何考えてんだ。そもそもあいつと真琴がどうつながっているのかよく分からんが、あれはないわ。ほんと」
 舌打ちしながらそう言うと、それを聞いていた鮫島が静かに口を開いた。
「お前、本当に何も分からないのか・・・・・・?」
 それは感情を押し殺したような声だった。喉から搾り出しているかのような。
「雅ちゃんが何を思っているか、本当に何も分からないというのか・・・・・・?」
 外で冷たく、風が鳴る。
 ただならぬ雰囲気に、意図せず生つばを飲み込む。
「教えてやるよ。雅ちゃんはもともと、あの子とはなんのつながりもない」
「は? じゃあなんで」
「なんでじゃねぇよ!」
 いきなり鮫島が腰を上げて俺の胸ぐらにつかみかかってきた。頭がショートする。
「てめぇが・・・・・・」
 しかしその後、はっとして口をつぐむ。
 そうして突き飛ばすようにして手を放すと、「悪い」と言ってそっぽを向いた。タバコを取り出し、火をつける。
「鮫島・・・・・・」
 俺は突然のことに、目を見開いたまま固まる。
「俺が・・・・・・」
 それでも何とか声を絞り出す。
「俺があいつらをこんな形でつなげたのか?」
 鮫島はこっちに背を向けたまま、深く息を吐いた。白が、その頭の左側から上に向かって広がっていく。それが一通り空間と一体化した後、静かに口を開いた。
「違う、俺が言ったんだ。俺が雅ちゃんに、お前が最近一回の教室行ってるってことを言って、あの子が草進って子だって教えた」
 一本調子に事実を羅列すると、鮫島はうなだれた。

 俺は何も言えない。
 俺は自分のことしか見えてなくて、鮫島も高崎も鈴汝も考えてみれば長い間放置してきた。あれだけ一緒に過ごしてきて、それなのに俺は自分のことでいっぱいになって、こんなにも周りが見えなくなっていた。
「・・・・・・悪い」
 そんな言葉に収まってしまうほど、軽いことではないのは分かっているが、それ以上何も言えない。再び口を開けば、余分なことまで言ってしまいそうだった。鮫島は何も言わずに首を横に振った。丸まった背中に何ともいえない哀愁が漂っている。
「雅ちゃんはさ、」
 その背中からぼそぼそと声が放たれる。
「構って欲しかったんだよ、きっと。ずっと一緒にいた自分を差し置いて、ひょっこり現れた下級生にばっか構ってたら、イラっとくると思う」
 文字通り白い息を吐くと、鮫島は自分自身の中でも反芻するかのように続けた。
「うん。その不満は大好きなお前には向けられない。直接あっちに害が行っちまったんだ」
 そうしていつになく淡々としゃべる。
「なぁ火州」
 鮫島が天を仰ぐ。日に焼けたつむじが見えた。そのままの状態で続ける。
「お前、いい加減どっちかにしてやれよ」
 白が空気中で飽和状態になり、背景に溶け込みきれなくなる。
「あのままじゃ、かわいそうだ」
 その声は本当に辛そうだ。
 はたして鮫島は、声だけで感情をこんなに豊かに表現できたか。そんなくだらないことばかりが、やけに気にかかった。






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