真琴17(2月19日、24日、7)
七
目の前は相変わらず黒い。それは例え外界の明度に変化が起きようと、雨の日の室内同様、まるで自分には感じ得ることのないものだった。しかし足元で音を立てていた砂利が次の一歩でなくなる。
「おら、早く歩け」
そうして背中を押される。平らな無機質であるものの、視界を失ったことによっていつもより歩幅が小さくなる。それでも前を行く足音を耳にしているため、突然何かにぶち当たる事こそないのだろう。踏み出す足を速める。
その時、向かう先から何か話し声らしきものが耳に入ってきた。その不気味な複数に意図せず身体を強張らせる。
「連れてきたぜ」
その後そんな声と同時にドン、と背中を押される。たまらず二、三歩よろめいてその先にいた人にぶつかる。衝撃に弾力を感じたことから、相手は女性なのだということが推測できた。同時に聞こえたうめき声は、やはりそのものだった。
あたし自身、両手を縛られているためひどくバランスがとり辛い。あたしは方向だけを頼りに「す、すいません」と頭を下げる。触れたの自体一瞬だったが、その人は震えているようだった。
強い香水のにおい。ふと、朋実お姉ちゃんを思い起こす。しかし、意図せず触れたのは肌だった。この時期にしては随分薄着であるように感じる。
「そろそろいいんじゃねぇのか?」
「そうだな」
その後、低く笑う声と共に「気絶されちゃあ楽しめねぇしな」という声が聞こえた。
何の話かと思う。身体が強張るのは、さっきとは逆に「その名」を耳にしていたためだ。あたしは強い香水の香りに思考がかく乱されるのを感じる。その女性も息を止めるのが分かった。そろそろと吐かれる息が震えている。
そうして再び歩くように指示されると、両肩に手を置かれた。触り方にも種類があると思うが、嫌なそれだと思う。背筋がぞくぞくする。
あたしは促されるままに足を踏み出す。鉄のにおい。背筋がぞくぞくする。
無意識のうちに目的となる姿を鼻先で探していたが、代わりにぶつかった血生臭さに、さらに身体を強張らせた。
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