真琴16(2月19日、5)
五
憧れ、とは言いつつも、無断でお借りするのはよろしくなかったでしょうか。というか、師匠の許可が必要なのも基本変な話だが。
「いえ、あの」
「それは、いつの話だ?」
まずい。怒っていらっしゃる。あれですよね。やっぱり一言お借りする事をお伝えしておくのが望ましい形だったんでしょうね。
「え、と、十一月の頭だったと思います」
その目が外れる。そうして「十一月、頭」とつぶやくと、記憶を辿るのが分かった。あたしは静かにしておく。緩やかな風が頬をなでると、軽く髪を押さえた。
その後、しばらくして師匠は顔を上げると「ああ」と言った。何かに思い当たったようだ。そうして向き直ると、やけに真面目な顔をして言った。
「あのな弟子、よく聞けよ」
その手をポン、と肩に置かれる。
「例えば乳無い、色気無い、経験無いの三拍子揃ってるとしてもな」
・・・・・・ちょっと待って、何かだいぶひどいこと言われてる気がするんだけど。聞き捨てならないんだけど。
「まぁ聞けって」
その視線はいつになく強い。
「例えそうだとしても、お前女なんだからそゆこと簡単に言うなよ」
カッと顔が熱くなる。あたしは思わず顔を伏せると、視線を泳がせた。
「簡単に言わない方がいいと思うよ」そんないつもの調子ではなかった。これは、禁止事項だ。
手持ち無沙汰にその頭をかくのが影の動きで分かった。少しの間流れた気まずい沈黙は、その後ぶっきらぼうな声に破られる。
「お前、運動得意な方?」
顔を上げる。
「え、あ、はい。たぶん」
「体育いくつ」
「え、」
「成績。五段階でいくつ」
あたしは少しの間思案すると、ぼそりと応えた。
「四、です」
「・・・・・・まぁまぁ、いけるかな」
師匠は次の瞬間には歩き出していた。実際何も言わなくても「ついて来い」と言われた気がして、あたしはその後を追った。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。