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真琴3(6月20日、6)


  六

「おい、火州やめとけ!」
 まだ増えるか。
 見ると、階段で先輩と一緒にいた、あのときの男性だった。それでもぴたり、と一時動きを止めただけで、火州先輩の視線は先輩を捕まえたまま離そうとしない。
「またキレちゃったのー?」
「もー」ともう一人、大柄の男の人も入り口の上の壁を片手でつかんで、それをくぐるようにして入ってきた。火州先輩の振り上げた手を、細い方の男性が正面からつかみ、抑え込もうとする。
「邪魔すんな!」
 そう言うと火州先輩はその腕をぶん、と振って、細い男性も吹っ飛んだ。
 どんだけ力あるのー。ふわりと煙くさいにおいが舞う。
「だーもう。後で文句言うなよ」
 その後、尻もちをついて痛そうにお尻をさすりながら、その人は立ち上がる。しかし次の瞬間、足音を立てずにその後ろに回りこむと、その首の後ろを軽く叩いた。
 背筋がぞっとする。素人のあたしでも、その動作は「慣れている」のだと感じた。間一髪、先輩の目前まで迫っていたはさみがぴたりと止まる。それとほぼ同時に、火州先輩のあごが一瞬上がり、その後糸の切れた操り人形のようにぐにゃりとその場に崩れ落ちた。
「ひっ」と先輩が足を引く。
「俺の出番かな」
 のっしのっしと歩いてくると、大柄の男性が火州先輩の体を担ぎ上げる。「悪いな」と細い男性が言った。それと同時にポケットからタバコを取り出し、火をつける。ちなみにこの教室、っていうか高校自体、禁煙。大柄の男性は満面の笑みで応える。程よく日に焼けて、歯の白さが目を突く。
 その後細い方の男性は煙を細く長く吐き出すと、入ってきたドアの上の方を見ながら言った。
「今回みたいなことは、感心しない」
 先輩はうなだれて一点を見つめたまま動こうとしない。その唇がわなわなと震えている。
「よく考えるんだな」
 そう言うと、その人はあたしに一瞥を残して振り返り、先に教室を後にした大柄の男性の後に続いて出て行った。

 出て行った。あたしと、うつむいたままの水島君と、先輩を残して。
 雨脚はずいぶんと弱まっていた。まるで今起こったことすべてを包んで、洗い流そうとするかのように。
 あたしはおもむろに、室内の時計を見上げた。





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