お待たせしました。まったりお楽しみくださいませ。
決してネタがなくなったわけではありません(笑)
ではどうぞ。
聖15(1月末〜2月上旬、1)
一
* * * * * * * *
「なぁ、俺おかしいんだ」
普段、決して弱さを見せないような人間が、信じられないほどの動揺を露呈する。僕は頭を抱え込んでじっとしているその姿を、幽霊を見るかのような目つきで見下ろす。
「おかしいのは」
いつものことですよ、と言おうとして飲み込んだ。スッと正面を向き直った目が、強い日差しの下であるにも関わらず、まるで光を反射していなかったためだ。
雪の白は容赦なく僕達を照らす。自然とまばたきが多くなる。そうしてチカチカと奇妙な蛍光色を残す光は、軽く眩暈を起こさせる。
「どう・・・・・・されたんですか?」
その目がスッと上がる。しゃがみこんでいる鮫島先輩と、かがみこんだ僕の視線が合わさる。その目は今にも音を立てて壊れてしまいそうに張り詰め、揺らいでいた。
次の瞬間、いつだったかこの人は女形が似合いそうだと感じたことを思い出す。
* * * * * * * *
正直言えば余裕がなかった。余裕、だなんて元々あった訳ではないけれど、それでも微かに見出せていた隙間がぴたりと埋まり、それだけでなくまるで水分を含んだかのようにぶくぶくと膨らみ始め、ついには僕の中で脳でない部分まで圧迫するようになった。
「水島君」
それ故、今僕にその他もろもろの要素に意識を向ける余裕がなく、だから他意のないコミュニケーションにも何か不純なものを感じてしまうに違いない。
「ううん、無理にとは言わないけど方向同じだし、途中まで一緒に帰らないかなと思って」
その顔が軽く下を向く。制服の上に羽織ったコートは合わせた手のひらを覆い、白い指先だけを見せている。
一月末の火曜日、午後七時半。部活終了後の体育館の前にて。僕は軽く微笑むと、手のひらを彼女の側に向けて胸元に持ってくる。
草進さんは、いい子だ。
「ごめん、部活の奴が用あるらしいから」
いい子だ。だからこそやり場のない思いばかりが増幅する。それは容量をオーバーした脳内に無理やり押し入り、
分かっている。例えばどちらに非があるとしても、逆に一般的に見てどちらも悪くないのだとしても、
悪いのは、僕だ。
草進さんはびくりと身体を強張らせて僕を見つめるが、すぐに視線を逸らして「そっか、じゃあしょうがないよね」と言った。
「何か、ごめんね。じゃあまた明日ね」
悪いのは、僕だ。それなのに謝られたのでは、これ以上どうしたらいいというのだろう。
軽く微笑み返すと、その後姿を見送る。そうしてその姿が闇に消えたのを確認すると、深くため息をついた。
気が付くと汗は冷えていた。タオルで鼻の辺りを拭う。ついでに露出した腕も拭うが、ただ表面の水分がとれただけで、じっとりとした汗ではない「何か」はどうしたところでとれない気がした。おもむろに視線を流す。
決して電球のせいだけでなくアスファルトが明るい。東の空に、白の君。
僕はまぶしくて目を細めると部室に向かった。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。