真琴3(6月20日、2)
二
いや、決して忘れていたわけじゃない。
あれだよ。バレーの練習のことで頭がいっぱいになっていて、別に意図して忘却しようと思っていた訳じゃない。
この瞬間まで、本当に忘れてたんだ。あれ。
三時間目の授業が終わると、そのほとんどの人間は部室に行って昼ご飯を食べる。残りの人間は部室を持たない文化部か帰宅部だ。そうして教室から人が減っていく中で、例の声が聞こえた。
「草進真琴いるかー」
忘れていた分ショックが大きい。机の上に突っ伏して気配を消していたとしても、その位置が分かっている以上、まるで意味を成さない。
「お前それ、隠れてるつもりかー?」
それでもそうせざるを得ないこの心境を何と名付けよう。
その後頭をポンポンポンポンポンポンポンポンとまぁ、叩くだけ叩いて起こされると、やっとの事で体を起こす。
「あ、あの、あたし今日部活で、部室でご飯食べるので・・・・・・」
出来る限りニコニコしながらやんわりと言う。よし、いいぞあたし。
「なんだ、お前髪に消しゴムのカス付いてるぞ」
なのにまるで聞いていない。
がっくり肩を落としている横であっはっはと笑いながら、火州先輩はあたしの右肩付近に付いていたものを取った。
「あ、ありがとうございます」
「おう、いいってことよ」
都合のいいことだけ、うまいこと拾う耳である。まもなく弁当のにおいが漂ってくる。
「じゃあ行くぞ」
あたしはそう言って伸びてくる手をさっとよけると、あわてて言った。
「あ、あたし今日部活で・・・・・・そ、その前に図書室に本、本返さなきゃいけないんで」
ここから見て西の方にある、図書館の方を指しながら言う。その先で不自然に人影が動いた。教室のすぐ外側だ。すぐに湧き起こった「何だろう」は横によけて付け加える。
「ほ、ほら、この本です。なんで」
「おう分かった。じゃあ玄関で待ってる」
そうじゃない!
お腹ん中で盛大につっこみを入れる。
「ち、ちょっ・・・・・・」
「五分だからな。早くしろよ」
そう言うと、火州先輩は返事も聞かずに、すたすたと後ろのドアから教室を出て行った。
あたしは右手を出して「待って」のポーズをしたまま、動けない。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。