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勤14(12月24日、5)


  五

「ズボンも」
「は?」
「寝袋が濡れます」
「・・・・・・」
 こいつ、何言ってるのか分かってんのか? しかし、俺の心情どうこう以前に正論であるため文句は言えない。半ばやけくそ気味にスポンスポンと脱ぐと、俺は寝袋に入った。ちなみにズボンは重ねて履いていたため、表になっていた方だけ脱ぐ。
 うわ、寒っ。
 それでも今まで濡れているなりに体温で暖められていた衣類を肌にしていたため、それがなくなると急に冷えた。ガチガチと身体を震わせて寝袋の首元を掴む。そうして弟子を見上げた。
「だから言ったじゃないですか。タバコは血管を収縮させてしまうんです。身体を冷やしたくないならやめてください」
 ・・・・・・おい。そういうことはもっと早く言えよ。知らねぇよそんなこと。
 俺は反論したかったが、億劫なのでやめておいた。くそ、寒い。
「・・・・・・お前は」
 弟子は、体育座りをしたまま俺を見下ろすと目を合わせる。丸めてあった髪は、いつの間にかほどいたようだ。その長い髪がゆるい曲線を描いてサラリと落ちかかる。
「お前は?」
 弟子はにっこり笑うと「大丈夫ですよ」と言った。不思議な事に寝袋が体温をまとって暖まってくると同時に、俺だけぬくぬくとしている事がやけに気になりだした。
 人にやさしく出来るのは自分が満たされている時。それはどうやら本当のことらしい。そうして大きめの寝袋の隙間を確認すると、俺は再び目を上げた。
「いけるよ?」

 弟子は一瞬大きく目を見開いたが、その後困ったように笑って遠慮をした。その指先が
震えている。唇が青い。
 本当は俺よりコイツの方が寒いんじゃねぇのか?
 俺はいよいよ落ち着かなくなった心臓をもってして、再び強く問う。
「お前も、入ったら?」
 しかしやはり弟子は首を振る。
「いえ、いいですよ」
「よくねぇよ。俺が、気ぃ遣う」
「水島君が」
 俺は、はっと目を見開く。
「水島君が、いるから」
 その表情は、信じられない程穏やかだった。寒さからだけでなく上気する頬。スッと上
がる口角。ゆるんだ目元。
 何かが胸を貫く。俺はふいに視線を外すと、顔をゆがめた。
 何だ?
 俺は原因不明の痛みに疑問符を浮かべるが、その後それは全く知らないものでもない事
に気づく。
 外は相変わらずごうごうとうなっている。カウンターの内側に入ったここからでは、そ
の様子は想像するしかない。しかし、それでも白の冷たい光が弟子の輪郭を縁取る。その
白の輪郭が、覆う冷気が何故だかひどく赦せなかった。
 たぶん本人無意識の内だろう。その動きが鈍くなる。顔全体が青白く、体温を失ってい
く。
「おい」
「・・・・・・はい」
「来い」
 弟子は弱弱しく笑うと、口を開く。
「大丈」
「大丈夫じゃねぇよ。水島どうこうの話じゃねぇだろう。お前、自分が今どんな顔色して
るのか分かってんのかよ」
 その顔が強張る。
「安心しろ。水島には言わない」
 普段「言い訳」を与えるのを嫌がるのは女が卑怯だと思うからだが、この時だけは半ば
無意識の内にそれを口にしていた。そうでもして本当に懐に入れなければならないと思っ
た。それは一年前から凍結していたものに近い思いだった。
 溶け出す。氷が溶け出す。皮肉な事に、それは極寒の状況下でのことだった。
 弟子は尚も視線を泳がす。その動きさえも既に鈍い。もはや選択の余地はなかった。
「水島に会いたいだろう。そのまま固まっちまったら元も子もねぇだろう」
 卑怯なのは、俺の方だ。
「早くしろ」
 そうしてたたみかける。
 弟子はやはり視線を泳がせていたが、その後ようやく身体を動かした。
「おい」
 俺はその顔を見上げながら言う。
「脱げよ」
 弟子はびくり、と身体を強張らせる。俺は苦く、笑う。
「お前が言ったんだよ」




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