真琴3(6月20日、1)
一
単体に変わりはないのに、音の一つ一つがつながり、皆で清音を奏でる。
外は相変わらずの雨。最初のうちは見飽きた青空に代わって現れた雲を歓迎していたものの、こうも長く続くともういいよと言いたくなってしまう。勝手は承知の上だ。
でも天気予報によると今日は午後から晴れるらしい。別に太陽は顔出さなくてもいいけど、上がってくれると足元が濡れないで済むから助かる。あと合羽を着なくていい。自転車通学ならでは。
そういえば学校の前の坂を下る際、よく歩きの人間に「自転車は楽でいいなー」と言われるが、家から学校までの距離が遠いため自転車が許可されているのであって、正味楽じゃない。特に平らな道を西に向かっていく時、あの偏西風は嫌がらせをしているとしか思えない。障害物がないのをいいことに、これでもかと言わんばかりに吹き付けてくる。あの風さえなければ、帰り五分はタイム縮むと思うんだよね。
「真琴ちゃん、今日部活一時からだって」
右を向くと千嘉ちゃんが、次の授業である数学の教科書を机に出している。
「分かった、ありがとう」
「今日から希望のポジションの練習に加えてもらえるらしいよ」
「軽く慣らす程度らしいけどね」と付け加えると、千嘉ちゃんはこっちを向いてにっこり
笑った。
「え、本当に?」
普段ボールを触れるのは、練習が始まる前のほんの数分だけ。その後は走り込みから始まり、筋トレ、声出しをずっと繰り返してきた。そのため練習に加えてもらえるというのは単純にとてもうれしかった。千嘉ちゃんはライトアタッカーで、あたしはリベロ。
「うん。今朝キャプテンに会って、そのとき言ってた」
・・・・・・すごい。さすが千嘉ちゃん。あの怖いキャプテンと普通に話してる。
うちのキャプテンは、もう本当に「バレー命!」みたいな人で、練習に妥協を赦さない。だからよくその怒声が体育館内に響いている。それを聞いて、隣半面で練習をしている部活の新入生は大抵驚く。当初、同じ半面で練習しているあたしでさえも驚いたのだから、当然と言えば当然のことだろう。
キャプテンはアタッカーらしく肩ががっしりしていて、全身の筋肉が恐ろしい程付いている。影で同級生の他の部員が「ゴリラ」とか呼んだりしているのを聞いたこともあったが、結局バレーが好きなのもうまくなりたいのも皆同じで、体育館に行くと皆ちゃんとキャプテンに従った。
そんな訳で、普段は優しかったとしても近寄りがたいイメージが邪魔をして、あたしは挨拶以上関われないのだった。
チャイムが鳴る。十一時十五分。土曜日であるため、今から始まる数学で今日の授業はおしまいだ。あと一頑張り。
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