鮫島君は遊びすぎなんだと思う、なんてこと誰にも言われないのは奇跡だと感じる今日この頃。当初「必要悪」のつもりで入れたのに、違和感なくなじんでるとこ王子。
M女ほいほい。ではどうぞ。
雅13(12月24日、1)
一
〈十二月二十四日と二十五日、スキーしに行かない?〉
それは唐突な誘いだった。
〈一応火州と高崎も誘ったんだけど行けないみたいで、行くのは水島君と弟子と俺らだから〉
はたしていつの間にあたしは「ら」に含まれる要素に成り代わっていたのだろう。その目を見上げたまま、続く言葉を待つ。
〈キレイにして来てね。大切な夜だから〉
その瞬間、あたしは雷が落ちたかのように全身を強張らせて、目を見開く。これ程までにあからさまな物言いは他に存在しただろうか。
「キレイに」は「着飾って」の意味ではない。随分デリカシーのない表現だが、それは確かな意味を伝えた。
〈分かったね〉
もはやあたしに選択肢は残されていない。否、元々最初の段階であたしに「断る」の選択肢は用意されていなかった。これは誘い、ではない。肯定を前提とした確認だ。
鮫島先輩はそうして視線を強めた後、いつものとおり偏った笑みを残して去って行った。
あたしは耳元で鳴る心臓の音を聞きながら、右手で左腕の肘の辺りをぎゅっと握った。掴んだ左肘がゆがんだ感覚を伝える。
伝えるにも関わらず、この身体はもはや自分のものでないような気がした。
真琴から連絡が来たのは、十一月前半の事だった。球技大会から数えて丁度四日後の晩。
〈鈴汝さん・・・・・・あたし水島君と付き合うことになったんです〉
その時、その一瞬、あたしは全身が音を立ててきしむのを感じずにはいられなかった。何かの冗談かとさえ思った。
そうしてあたしは、自身の心臓の奏でる音が、ひどく痛々しいことに気付く。一瞬、何か異常が起きたのかと思ってしまう。だって考えてもみなかった、おかしな反応をしているのだ。
その後、真琴は一通り話の経緯を話すと「すいません、お時間いただいて。鈴汝さんも頑張って下さい」と断って、電話を切った。
あたしは耳元に当てていた携帯を力なく下ろすと、定まらない視線で一点を見つめた。自分の部屋であるにも関わらず、ここが異空間であるような気がする。折り曲げた足がジンジン痺れているにも関わらず、現実の世界ではないような気もする。
異常なまでにどんどん胸元を叩く心臓だけが、やたら生々しく息づいている。
何を、頑張るっていうのよ。
あたしは思考不可能な脳内で、ふわりとその笑顔だけが浮かび上がるのを感じる。
〈例え悪魔の心を持っていようと、他の誰かを好きになろうと〉
室内を蛍光灯が照らす。それは実際点滅している訳ではないのに、チカチカと目を突いて。
悪魔、はあんたの方よ。
崩して座った膝元をぎゅうと握り締める。制服のスカートがくしゃりとゆがむ。
あたしは「他の誰かを好きな相手」を好きになったりなんかしない。それは十分条件であって、決して絶対条件ではない。
心を大きく占めていた要素が、気付かぬ内に溶け込んでいた背景が抜け落ちる。
何で。何で。何で。
あたしは埋まらない穴を、自分自身では埋めることの出来ない穴をこの際ひどく疎ましく思って、手元にある枕を壁にたたきつけた。
従順なそれは壁に当たってくぐもった音を立てた後、ベッドの足元にどさっと落ちる。その後少し遅れてミシミシと音を立て、壁が理不尽な衝撃に不満を漏らす。
何よ、それ。何なのよ、それ。
やりきれない思い、耐え難いそれ。人はそれを欲求不満と呼ぶ。
何で。
あたしはベッドの枕元に座ったまま、力なく沈んだ枕を見やる。それは少し身体をねじらせて、でも見慣れた姿のまま、そこに在る。
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