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真琴2(6月15日、2)


  二

 高校の水泳の授業なんて、ほとんどお遊びみたいなもんだ。プールサイドの脇に一列になって、隣の人と手をつないで背中から水に入るとか、じゃんけん列車とか。おかげさまで泳ぎの得意でない自分も、わりと楽しむことが出来た。凍えそうな水温の問題は除いて。
 途中、慶子と二人でプールの段差に手をかけ、うつ伏せにプカプカと浮きながら話をした。
「さっきのは本当に偶然で」
「ウソウソ。してやったりの顔してたし」
「してないってば! ちょっと、怒るよ!」
「うひひ。冗談だってば」
 慶子はニヤニヤしながらこっちを見ている。これだけ距離が近ければ、誰なのか区別が付くのだが。
「水島君、気付いてくれるといいねー」
「ちょっと! 声大きいって!」
 あわててその口をふさごうとする。
「大丈夫だってば。こんなに距離あるんだから」
 小さな慶子は、あたしの手をうまくかわしながら、少しだけ離れたプールの段差に、もう一度手を掛けた。

 始業式から二ヵ月半。クラスの中で生活しているうちに、一人の男の人に興味を抱くようになった。
 彼の名は水島聖君。普段無口なのだけれど、何故か彼は人に好かれる。というかよく頼られている。それは口が堅そうなイメージがあるためかもしれないが、何かあるとクラスの男の人は皆それぞれ交代に、水島君のところに行っている。下手に口出しをしないということもあるのかもしれない。ただ聞いて欲しくて、アドバイスを求めていない相談なんかはよくある。
 あと、本をよく読んでいる。昔の本が好きなのか、「平家物語」とか「源氏物語」とか。「源氏物語」は現代語訳されたものだった。最近は夏目漱石の「こころ」を読んでいる。教科書先取り。すごいなぁ。やはり、男の人は知的な人に限る。
 あたしも本が好きなことから、なんだか一方的に親近感が湧いた。
 実はつい先ほど、更衣室前でぶつかってしまったのは水島君だった。焦っていて、顔もろくに見ずそのまま来てしまったのだが、確かにあの声は水島君のものだった。
 かすかに両手に残った感覚は、今でも何となく思い出せる。ぶつかる直前、身を守ろうとして水島君の左腕をガッ、と思いっきりつかんでしまった。
 物静かなイメージとは裏腹に、水島君はバスケ部に入っている。見たところポジションはガードで、よくドリブルの練習をしている。そのためか思っていた以上に二の腕が硬くて驚いてしまった。相手が水島君と分かっていればもう少しつかんだままでいたかもしれない、なんて思わなかったと言えばウソになる。
 ちなみに(あたしから見たら十分高いと思うが、)身長はたぶん部員の中で一番低くて、それを気にしているのか、よく購買で牛乳を買って飲んでいるのが何だかかわいらしく思えた。そんなわけで、何となく、惹かれているのだ。
「今、水島君の事考えてる?」
 どきりとして右を見ると、慶子が顔中を口にして「けっけっ」と言いながら泳いでいくところだった。それをまぁこのように慶子もそうだし、この間なんか千嘉ちゃんまでも同じようにからかうし、いいようにネタにされているわけで。「違うし!」と言って、その後を追いかける。
 今回このことについて反省した事。自分の恋愛事情を話すときには、まずネタにされる事を覚悟すること。
「こいつー!」
 慶子の上機嫌な笑い声が舞い上がり、耳に入る他の一つ一つの音と重なり合う。それらは一つの大きな黄色になると、灰色の空に吸い込まれていった。





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