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飛鳥2(5月7日、3)


  三

「火州、行こうぜ」
 階段挟んで向こう側の五組から高崎が現れた。
「鮫は三限サボってるから、もう上にいるらしい」
 そう言ってでかい図体を揺らしながら、ずかずかとクラスに入ってくる。
「おう」
 そう返事をすると、その後屋上に行って昼を済ませた。さっきから高崎が、得意のおしゃべりでいつの間にか現れた鈴汝を笑わせている。鮫島は自分のテリトリーである「ドアの上のコンクリのスペース」で昼寝をしている。
「なぁ火州」
「ん、あぁ」
 不意打ちで驚いて横を向くと「なんだ、聞いてなかったのかよー」と笑われた。高崎は太陽の光を全身に浴びて、その白い歯を出しながら「こいつ」と言う。ここで不満そうにしないのが、こいつのいいところだ。
「悪い、ボーっとしてた」
 仰向けに寝転がっていて、顔だけそっちの方を向けたまま言う。
「男の人はいいですね。紫外線とか全く気にせず、そうしていられるんですもんね」
「うらやましいです」と言って、鈴汝も笑った。
「そうだな。でもこの時間帯はさすがにきついかも」
 そう言って起き上がると、日陰を求めて入り口に近づく。ドアの前のひさしが何よりありがたいと思った。

 雲一つない晴天。遠く、地平線が見える。
いつだって不思議に思っていたが、遠くへ行く程その景色は灰色がかっていく。すべての物質が同じ色の衣を薄く纏う。あれはなんでだ。
 日陰に入っても顔の熱はなかなか引かない。結構長い間日に当たっていたからしょうがないか。その時、ふと思い立ってひさしの下から軽く呼んでみる。
「なぁ、鮫島」
 返事はない。よく寝られるな、あんなところで。
 さっきより少し大きい声で、もう一度だけ呼んでみる。するとしばらくして「何」という声が降ってきた。ひさしから出て見上げてみると、まぶたの開ききっていない鮫島が恨めしそうにこっちを見下ろしていた。その顔は熱を帯びているのか、ほんのり赤い。
「眠いんだよ」
「よく寝られるな、そこで」
「昨日徹夜したんだよ。今日一限のテストのために」
「何のだよ」
「社会」
 手すりにもたれかかって、鮫島はぐったりしている。
「俺に言ってくれりゃー社会ぐらい」
「やだね。お前いたって、どーせ暗記しなきゃなんないの変わりないじゃん」
 その後「数学とかなら分かるけど」と付け加えた。鮫島流の嫌味だ。おかしくて笑ってしまう。そうしてそれに合わせて下を向く。
 しばしの沈黙。その後再び「なぁ」と声をかける。
「だから何」
 そう言ってダレて薄く笑った鮫島が、何かを察して黙り込む。
 沈黙。鈴汝の笑い声が聞こえる。
「ごめん、やっぱいい」
 俺は「悪い」と付け加えると、見上げて笑い、もう教室に戻ることにした。見上げた先で鮫島は、腑に落ちないといった顔をして俺を見つめていた。
 鞄を取り、高崎と鈴汝に一声かけると、俺は屋上から階下へと続くドアを開けた。





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