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真琴1(4月7日、3)


  三

「草進真琴はここかー!」
 教室のドアは前後共に開いたままだ。そのため「ガラリ」とか「ピシャリ」とか前触れなく、突然その人は現れた。
 金色に近い茶髪。まさか一般の高校生には見られない頭部にまず目を奪われる。前髪は潔くオールバックにしてあり、長さは肩の辺りまである。やたらと背が高い。というのはあくまであたしの主観で、中学ではこんなに背の高い人はいなかった。女性の方が成長は早いと聞いていたが、あの頃から現在にかけてまさにそうだった。
 慶子は目を丸くしてあたしの方を見た。あたしも負けず劣らず目を丸くしたまま固まっていた。「草進」はあたしの名字、「真琴」はあたしの名前だった。
 教室内にはまだ三分の一程の人間が残っている。アイウエオ順に辿れば「ソ」がどの辺りにあるか見当はつく。そうしてここに存在するすべての人間があたしに焦点を合わせた。
 最後に一人、その人があたしに焦点を合わせた瞬間空気の流れが変わる。ふわり、とごく自然な感じに、でも確実に、変わった。

「お前か」
 教室の前のドアからつかつかと歩み寄ってくる。
 あたしはパニック状態に陥っていた。まず「あたし」イコール「場所」の意味が分からない。「あたし」は「ここ」ではない。
「ここに、いた」
 ああ、それなら通じる。いや、問題はそこではない。
 慶子が避けたところに堂々と立ち、机をはさんで対峙する。その人は、尚も固まっているあたしの手首を勢いよくつかむと、机の横に引っ張り出し、そのまま教室の外に向かって歩き始めた。
 はいはーい。軽度の誘拐起きてまーす。ここにいる人たち全員目撃者。
 ふざけている場合ではないのは分かっているが、そんなことを考えずにはいられない。いったい何が起こっているというのだ。
 自分にとっての当たり前の前提として話をするが、あたしはごく一般的な道を歩んで来た。割と真面目に勉強をしてきて、友人と仲良くして、先生に目をつけられることなく。なのに高校に入った途端、怖そな兄さんに拉致されてる事実。
 どすどすどすどす。
 男性の早足に付いて行ける訳もなく、強制的に小走りになる。下駄箱の近くまで来ると、その人は手を離し、「脱いで来い」と言った。
 ・・・・・・何を? 
 最近の少女マンガだってここまで急な展開にはしていないはずだ。無茶振りだ。初対面三十秒でそんなのってないわ。ここは譲れない。あたしは一般の道を外れるわけには行かないのだ。なけなしの勇気を振り絞って首を振る。
「早くしろ」
 ふるふる。
「お前、俺を怒らせたいのか?」
 ふるふるふるふる。
 その人は眉根に軽くしわを寄せて、鼻からフーンと息を吐くと、「じゃあこのままでいい」と言って再びあたしの手首をつかんだ。
 どすどすどすどす。
 玄関を抜けて右手に折れ、校舎の端まで行って再び右手に折れた。遠く挨拶をする声が聞こえる。その間隔の長い事から、もうほとんど校内に人がいないことが分かった。窓ガラスを挟まないで目にする木々はより青さを増して、それにいい匂いがした。
 校舎を挟んで玄関の反対側まで来ると、その人はやっとつかんでいた手首を離した。そして「お前」と言う。どーでもいいが、初対面の相手を、もう少しだけ敬ってほしい。まだ「貴様」の方がマシだ。漢字変換したらの話だが。そんな思惑に気付くはずもなく、奴は続けた。
「俺と勝負しろ」




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