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特別編、慶子5


  五

「上地さん、ちょっと」
 そうして津山君に声をかけられたのは、その後九月も終わりに差し掛かる頃の放課後のことだった。
「何か図書室の近くで水島が三年の人間と話してるの見かけたんだけど、そいつ草進さんのところによく来てた顔だったから・・・・・・何かその辺ってつながりがあるのか知らない?」
 私は小首をかしげる。そうして水島君と火州先輩がつながる。仮に水島君と真琴が近ければ火州先輩は落ち着いていないだろう。ということはやはり火州先輩と真琴が近いということなのだろうか。
「・・・・・・よく分かんない」
「水島君と、その三年の人の関係が、か?」
「うーん・・・・・・そっちもよく分かんないけど、元々真琴はその人のこと嫌がってたし」
 津山君は視線を流すと「そうか」と言って腕を組んだ。私はもう帰ろうとバッグを掴んで立ち上がる。その時だった。
「あ、上地さん、それと」
 私はその惑いに、熱を持たない視線を向ける。津山君は頼みがあると言った。何の事かよく分からなかったが、それは真琴に関するものだった。私は真琴を取り返すためなら、大方何でもするつもりでいた。
 そうして津山君の願いは本当にシンプルなものだった。ただ私が真琴の傍を離れればいいというだけだった。丁度いい。そうして真琴は私の存在を知ったらいいんだ。私はうなずく。
 ねぇ、真琴。
 元に戻って。また前のように。

 本当にあの火州先輩と真琴の間に何かあるのかなんて半信半疑だったけれど、その後うわさは尾ひれをつけて勝手に独り歩きを始めた。それは本人に気づかれることなく、静かに静かに染みわたっていく。
「草進さん、あの前よくここに来ていた人と付き合ってるらしいよ。何でも二人で海に行って一泊してきたとか」
 時にうわさの内容が、あたしが最初聞いた時のそれよりかなり飛躍して再び私の耳に入ってくることもあったが、もしかしたらそれは他の誰かが情報のパーツを持っていて、私が知らない部分だったのかもしれないと思うことにした。ちなみに「二人で」は寺岡さんの情報を参考にするとしたら、完全な誤報だ。
 そっとその様子をうかがう。九月三十日の三限。真琴は体育で使った道具を片付けようとしていた。一瞬手伝おうかとも考えたが、すぐに津山君がその助けに入った。ツキン、と胸が痛む。
 別に私でなくてもいいのだ。真琴の周りには、いつも決まって手助けをしてくれる人がいる。自ら動かなくても、必ず周りが寄って来る。労せず必要なものが備わってしまう。それはうらやましいと同時にねたましかった。
 私はその姿に背を向けると、教室に向かって歩き始めた。私には友達がいる。常に一緒にいることはなくても、クラスのほとんどの子と話が出来る。だから特に何に不自由するわけでもない。言ってしまえば、私が真琴に構ってあげているだけなのに、真琴自身はどこ吹く風だ。
 何で。何で。
 津山君が真琴を離れたと思ったら、水島君がその手伝いに入る。まるで私なんて元々必要なかったかのように、上手に穴が埋められていく。私の中に開いた穴はまるでふさがらないのに。どんどん深く、暗くなっていく。そうしてそれは深く、暗く、影をまとう。




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