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飛鳥11(10月9日、2)


  二

「ダメです!」
 俺は次の瞬間、正面から強い力で押さえられる。鈴汝は涙のたまった目で俺を見上げると、首を振った。そうして声を押し殺して続ける。
「これはあの子の、クラスの問題です。部外者は、入ってはいけないんです」
 部外者。
「ここで飛鳥様が入ってしまったら問題がさらに複雑になってしまいます。どうか、今はどうか」
 鈴汝は懇願の瞳で俺を見上げる。俺の胸のあたりに付いた両手は、強くシャツを握りしめている。
「我慢なさって下さい」
 鈴汝は動かない。震える強い瞳をもったまま、決して動かない。俺は自分の置かれている状況に、深い憤りを覚える。
 ならば何故俺をここに連れて来た・・・・・・!
 それは鮫島。それは俺に必要なことだと思ったため。だから俺は鮫島を責めることは出来ない。鈴汝は動かない。断じて動こうとはしない。その時、教室の後ろのドアから人が出てくるのが見えた。
 水島は一瞬驚いたようだ。目を丸くして、不自然に足の動きを止めた。しかしそれもすぐに戻り、再びこっちに向かって歩いて来ると、俺たちの横をすり抜けて、渡り廊下を渡って行った。
 その腕に真琴を抱きかかえたまま。
 真琴は以前と同じようにぐったりとしていた。その揺れる白い足。小さな体がその腕の中に音無しくおさまっている。
 頭がおかしくなりそうだ。
 俺は自分の中で暴れ狂う、もはや名のつかない種類の感情に全身が染め上げられるのを感じた。怒り、悲しみ、辛さ、やりきれなさ、嫉妬、寂しさ。多くの負の感情を集めた集合体と化す。俺はそうしていっそすべてを投げ出してしまいたい衝動に駆られた。
 バカらしい。やめだやめだ。
「・・・・・・すいません」
 俺は半ば無意識のうちに視線を下げる。しかし次の瞬間、自分の体が強張るのを感じた。その胸に付いた手が震えている。その唇も小刻みに震えている。予期せぬことに頭がサッと冷えるのを感じた。
 その震えは、嵐が過ぎ去った後安堵して体に現れた反応か。それとも
「・・・・・・いや、悪かった」
 俺はそう言ってその手を取ると、優しく包む。尚も鈴汝の震えはおさまらない。俺はその肩を抱くと、とりあえずゆっくり出来るところ、屋上に向かおうと来た道を振り返った。
 その時、教室の前のドアの入り口のところに、微かに見覚えのある小さな人間を見つける。その強い目。目が合ってもひるむことなく、少女は俺を見返した。しかしその後その視線は気づいたように大きく揺らぐ。少女は少々ためらった後、何かを言おうとして口を開くが、結局何も言わず静かに教室の中へと消えていった。
 気がつくと鮫島も消えていた。まるで気がつかなかった。いつの間にいなくなったのか。俺はゆっくりと歩を進める。
 風が優しい。俺はそうしてついさっき鈴汝が放った言葉を思い出した。
〈部外者〉





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