聖2(5月15日、4)
四
例えば、の話だ。
例えば自分にとって初めての彼女ができて、最高に幸せなときに何らかの理由でその彼女に会えなくなったとしたら、どうする?
どうする、ではないな。強制的にその状態に追い込まれたとしたら、どうなる?
それが、今の僕。
じゃあ例えば、
その彼女を思わせるような人間が突如目の前に現れたら、狂うか狂わないか。
その答えが、今の僕。
護ると誓ったのは、彼女に何かを望まない前提のためのものだったのに。
生徒会室のドアが目いっぱい開かれて、その勢いでドアが激しく音を立てた。
僕は、狂ってしまったのだ。
中身が悪魔だったとしても構わない。そんなくだらないことにイチイチ構っている余裕がないほどに、僕は狂ってしまったのだ。
「サイテー! 死ねばいいのに!」
そう言い残し、会長は去っていった。
短いと思っていたリーチは思っていたよりかは長くて、彼女の後ろ髪が僕の頬をかすめていった。そうしてそれは確かに、ダメージを残していった。
説明がひと段落し「何か分からないとこある? なかったらもう行くわ」と口にすると、会長は席を立った。そのまま首をぐるりと回して伸びをする。
僕は何も言わなかった。引き止めなければの一心で、なのにその手段がどうしても思い浮かばなかった。
「じゃあ、いいわね」
僕の横を通って、会長は入り口に向かう。その背中を見た瞬間、僕は起こった焦燥に飲み込まれた。その手をとると、僕は会長の背後から腕を回し、力いっぱい抱きしめる。
「は、何! ちょっ・・・・・・」
彼女は驚いて腕の中でもがいた。そのあまりのか弱さに胸を焼かれ、さらに力を込める。
暖かくて、柔らかくて、ふんわりといい匂いがする。耳元に響く、ちゃんと熱をもった声。夢ではない、本物の肉体。
右の首元に顔をうずめる。
次の瞬間、右の手首に激痛が走った。会長が噛み付いたのだ。たまらず腕が緩む。そうして僕の腕から逃れると、力いっぱい叫んで出て行った。夢には存在しなかった「痛み」の感覚が、僕を金縛りにしていた。ぼうっと、痺れた頭で紡ぎだす。
「それが出来たら、苦労はしない」
遠く、声が聞こえる。昼飯を食べ終えた人間が、グラウンドでお決まりの球技にでも励んでいるのだろう。うらやましい事だ。
影っていた光が再び強くなる。ゆっくりと、柔らかく、明るく、強くなる。
だれか教えて欲しい。
僕は一体どうしたら、この闇から抜け出せるんだ。
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