聖1(6月5日、4)
四
放課後になると、教室内はにわかに活気付く。道具を持って部活動に向かう者。放課後のおしゃべりに心躍らせる者。一目散に家に向かう者。そのすべてが一瞬ごちゃ混ぜになって、軽い交通渋滞が起こる。かく言う自分も着替えを持って体育館に向かった。
バスケットを始めたのは小学校五年生の時だ。元々運動は得意ではなかったが、のめり込むと同時にその能力が飛躍的に上昇した。体育の成績が二から四になったと言えば分かりやすいだろうか。
高校に入ってからも真っ先に見学に行き、その場で入部届けを提出してきた。そのため他の新入部員よりも早く、練習に加えてもらうことが出来た。
練習前のアップが始まる。体育館の半面を使ったランニングから入り、準備運動、それから実際にボールを使った練習に入る。僕も先輩達の後について走り始める。比較的、ペースは早い。気をぬけばすぐにでも置いていかれる。すぐ前を走る先輩の背中を見た。そうして「半面」の境の直線を走っているときだった。ふくらはぎにボールが当たる。それはまだ半面の区切りとしてネットを引いていなかったため、一足早く練習を始めていたバレー部のボールがこっちに抜けて来たものだった。
「すいません」
基本的に体育館はスペースに限りがあるため、いくつかの部活が使用する上で男女別、部活動別に曜日と時間を割り当て、皆が平等に練習できるように定められている。ちなみに前半は十六時二十分から十八時十分までで、後半が十八時十分から二十時までだ。
今日はバスケ部が前半半面を使う一方で、前半のもう半面はバレー部の女子が使用するようだ。慌てて駆け寄ってきたのは、同じクラスの女子だった。確か、草進さんといった。
眉の辺りで切りそろえた前髪に青縁のメガネ。長い黒髪を後ろで一つにまとめているため、顔周りはすっきりしている。にも関わらず、俯き加減でいるためその顔はほとんど確認できない。真新しいジャージ。上下紺色の地に肩と太ももの両サイドに入った学年色の赤。
僕は一番後ろを走っているため、立ち止まってそれを拾うと、軽く投げて渡した。
「あ、ありがとうございます」
やや白い手のひらでボールを迎えると、一瞬目を上げて深々とお辞儀する。その拍子に、前髪と顔の横の束ねきれなかった髪が内側にふわりと風を含む。
「ごめん、真琴ちゃん」
「真琴ちゃん」越しに、声の主に目を向ける。同じく袖に赤のラインの入ったジャージに、潔い短髪の女子が顔の前で手を合わせている。むこうの子の方が若干丸い。いや、丸いという表現は適当でない。あくまで健康的な肉付きだ。
女子はこういう表現をするとき、やたらとこだわる。しかしながら、「ぽっちゃり」「豊かな」「ふくよかな」など、どの表現をとってもこのタイプの女子はうまく当てはまらない。かといって「健康的」と、ニュアンスとしてはなんとなく近い表現をしたところで、九割がた嫌味っぽく聞こえるらしい。褒めたつもりが逆効果だったりするから注意が必要だ。
・・・・・・と、そんなことを言っていたのは今川だ。人なつっこい笑顔の情報通は、変なことに詳しい。
「うん、いいよ」
「真琴ちゃん」はもう一度頭を下げると、そそくさと彼女の元へ戻っていった。僕も自身も先輩達に追いつくよう、再び駆け出す。
「ごめん、わざと」
ふいに、そんな短髪の女子の声が聞こえた気がして振り返る。その先で「真琴ちゃん」が彼女に向かって腕を振りかぶっているのが見えた。
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