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聖8(9月1日、8)


  八

「別に良くない? 俺のことは。それより高崎、彼女とはうまくやってんの?」
 いや、別によくなくないだろ。
 僕は不審な動きを見せる心臓をゆっくりと息を吸うことによって何とかなだめる。それにしても話をするならこっちに来ればいいのに。階下に人がいたら聞かれるだろう。
 だが高崎先輩もわりとお構いなしだ。
「おう。休みに入った後は自由利いたから、ある程度やりたい放題だったな」
「うっわいいな。ヤりたい放題とか。マジうらやましい」
 ・・・・・・何か高崎先輩のセリフの一部に若干の誤変換が加えられた気がするのは気のせいだろうか。
「俺、今超欲求不満だから。ちょっと火州、誰か紹介しろや」
 間違った世界に迷い込んだ気がしたのは、気のせいではなかったようだ。僕は視線の先を火州先輩に向ける。
「誰かって、誰もいねぇよ」
 火州先輩はつまらなそうにそう口にする。
「よく言うよ。お前いつもボトル並みにキープしてるくせに」
「何だよボトル並みにって」
 火州先輩は苦笑いする。何だか居心地が悪そうだ。僕の視線も地味に効いているのだろうか。
「そう言われてみれば、火州、今お前どうなんだ? そっちの方は」
 高崎先輩が好奇心がてらそう尋ねる。
 火州先輩はいよいよ居心地悪そうに「いや・・・・・・今はリカだけだから」と答える。
 ズキン、と胸の奥が痛む。僕は一瞬何故そうなったのか分からなかったが、すぐに鈴汝さんのことを思ってのことだと思い当たる。
「リカ」そう呼んだ火州先輩から、僕の知らない雄の部分が垣間見えた気がした。
 それはあの海に行ったときの初期の会話とは違って、かなり確かなリアルを含んでいる。
「ふーん」
 高崎先輩はあごに手を当てて火州先輩を凝視している。火州先輩は決してその目を合わそうとしない。まぁ、あれだけ見られたら嫌かもしれないな。軽く同情する。
「リカちゃん・・・・・・か。お人形さん遊びも大概にしないと、後で痛い目見るぜ」
 ・・・・・・何の話だ? 僕はチラッと高崎先輩を見るが、その表情からは何も読み取れない。代わりに火州先輩を見ると、態度こそ落ち着いたものだったが、その目の泳ぎ様から動揺を見て取った。僕は重なっていく不審に眉をひそめる。
「あ、思い出した」
 その時、最も遠い位置から、白に包まれて声が届く。相変わらずその顔は向こうを向いたままだ。トントン、と指先で灰を落とした後、その頭部だけが少し手前に傾く。赤く焼けたつむじ。
「お前、雅ちゃんとはどうなった?」
 もはや有無を言わさぬ強い問いかけ。その声は、はっきりと僕の耳に振動を残して消えゆく。





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