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雅7(8月13日、2)

  二

 ずいぶん歩いたように思う。それは足全体が強く赤く染まっていることからも確認できる。昨日の貯蓄はあるものの、もし上着を羽織っていなければ、背中も同じ色に染まっていただろう。
 ふと見回してみるが、こっちのほうには来たことがなかったため、似たような景色にも関わらず違和感を覚えた。
「こっち」
 鮫島先輩はそう言って、例の段差の大きな階段に足をかける。
 昨日食料調達の際、飛鳥様と上った延長上のものだ。こんなに遠くまでもそれは淡々と続いている。
 あたしはその声に引かれるかのように、同じく階段に足をかける。しかし、やっと全部上りきったところでもう少し歩くと、再び「こっち」と聞いて、今度はその階段を下った。
 何で上った、って話しだよね。でも違うみたい。
 何の建物か分からないけど、「昨日お世話になった建物に比べて一回り小さい灰色のそれ」が、一部階段の側面を削って存在する。たぶん削られたのは下三段ぐらいだろう。そこに背中をめりこませるような感じでいるため、建物自体、ずうずうしく見える。
 また、その「ずうずうしい背中」に向けて階段を何段か下りると、立っている状態で一番上の段から、頭までほとんど隠れることが分かった。
 その灰色に、同じくずうずうしく寄っかかって座ると、鮫島先輩はヒラヒラと手招きをする。まるで自分の巣に獲物を誘い込むかのように。
 あたしは階段を下りると、鮫島先輩の左隣に腰を下ろす。
 外からしたら完全に死角になるだけに、あたしは少しだけ身を硬くした。

「火州と、何かあった?」
 言っていることはさっきまでのように軽いものだが、その口調は少し違った。男の人の声は、低く、深く、染み渡る。
 横で動く気配がしたので、そっちを向く。鮫島先輩は腰に手を当てたまま、苦く笑った。
「・・・・・・また忘れた」
 あ、と思う。タバコのことだろう。
「買ってきましょうか?」
「いや、いい」
 鮫島先輩は立てた膝の上で両手を組んで応える。
「機嫌、悪くなったらごめんね」
 あたしはその意味がよく分からなかったが、とりあえずうなずいておく。
 ここから斜め上の正面に見える、階段を上りきった先にある豊かな緑から、微かに「ジジジ」とセミの声が聞こえる。
 太陽が、そうっとその角度を変える。





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