真琴6(8月12日、3)
三
出る時は開いていた廊下の窓が閉まっているせいで空気がこもり、その濃度が上がる。
若干の息苦しさ。何故かマンゴージュースを思い出す。あれは普通ので果汁三○パーセントらしい。一〇〇なんかとてもじゃないけど飲めないのだと。
濃い。空気が、濃い。あたしはうつむいたまま、そっと息を吐く。
でも言えた。今まで言えなかった気持ちが伝わる。
「うん、よかった」
そうして水島君はうれしそうにした。あたしはそうっと顔を上げる。
やっぱり、柔らかくなった。これは少しだけでも近づけたということなのだろうか。
抑えようとしても、気持ちが勝手に浮上する。
浮かぶ風船は、油断して一度手を離してしまったが最後、どこまでも昇っていく。どこまでも、どこまでも、際限なく昇っていく。
「あ、あとね」
あたしはここぞとばかりに勇気を振り絞る。
「今日、星すごくキレイだったよ」
花火の夜、水島君が言っていたことを覚えているよ、と。そうしてあわよくば、その時同じ時間を共有したあたしを思い出して、と願い、声をかける。
「・・・・・・そっか」
そう言って水島君がこっちに向かって歩いてくる。そうして「教えてくれてありがとう」と言った。あたしは再びうつむく。「ううん、」と言った声は、いつもと同じ音量に戻っていた。
「用事あるから、またね」
水島君はあたしの横をすり抜けると、階段に足をかける。
近くを通った際、あたしは自分の心臓の音が聞こえてしまわないだろうかと不安になった。そうしてほっと胸をなでおろす。
「あ、そうそう」
はい! 何でしょう!
軽く一センチほどが飛び上がる。我ながら「リアクション部門」で確実賞を取れる驚きようだった。二段だけ階段を下りたところで水島君はこっちを見ずに言った。
「そのパーカー、脱いでいった方がいいと思うよ」
あたしはビクリ、と体を強張らせて自分を見下ろす。
白のパーカー。火州さんに借りたものだ。
全身の血の気が引いていく。
「じゃ、」と言い残して、水島君は階段を下りていった。
「またね」と言ってもらえたうれしさは、それこそ今宵のキレイな星空のかなたへと消し飛んだ。
脳が、焦げ付く。
頭じゃなく、心臓で考える。
何してるんだよ、あたし。
むせ返るように濃い。
あたしはそれに耐え切れず、急いでお手洗いに駆け込んだ。
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