雅1(5月4日、4)
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四
「あの子調子のってんじゃないの?」
「なんかすっごい自分の事かわいいって思ってそう」
「分かる分かる。それ鼻にかけてなきゃ、あんな態度とれないよね」
女のねたみは、底が知れない。自分の事を棚に上げてでも、出る杭は打たなきゃ気が済まない。ぐっと下唇を噛みしめると、声のした方とは逆の方向に足を向ける。
すべての引き金になったのは、生徒会の同期の中辻さんの彼氏が、中辻さんがいるにも関わらずあたしに近寄ってきたことだった。元々男性は苦手だったし、彼女がいるという時点で全くそんなつもりはなかったが、中辻さんはあたしが色目を使った、と周りに広めた。その後は何を言い訳しても、自分をかばっているとしかとられなかった。
女の情報網をなめちゃいけない。どこがどうつながっているのか把握しようなんて骨の無駄。そうして、あっという間にあたしは一人になった。生徒会だけじゃなくて、部活でも、クラスでも。
その日以来「かわいい」「キレイ」はあたしにとって褒め言葉ではなくなった。
生徒会内で仕事が出来ると言われるのは、人一倍学ぶから。
人一倍学べるのは、一人でいる時間がたくさんあるから。
一人でいる時間がたくさんあるのは、相手をしてくれる人がいないから。
ひいては、あたしに友人と呼べる人間がいないから。
あ、一人だけいる。
部活の練習試合の時知り合った、他校の子。
一回の冬。雪がちらつく中での練習試合は、うちの高校で行われた。彼女とは「お手洗いはどこですか」と聞かれたのがきっかけで、話をするようになる。名をマリエと言った。漢字をどう当てるかは知らない。
事情を知らないマリエだけは、あたしを何かでくくってしまうことなく、あたし自身を見てくれた。彼女自身、プレイヤーとして特に目立つ存在ではなかったが、一球一球にかける意気込みが強かったのを覚えている。
あたしは中学の頃からテニスをしていた。中学の頃はダブルスだけだったが、高校に入るとシングルスとダブルスの両方があった。もちろんあたしにもペアはいたが、基本的にシングルスで試合に出ていた。
一人だと気兼ねがいらない。あたしのペースで、あたしの考え方で、あたしのコンディションに合わせて、すべてを動かすことが出来る。そのスタイルはあたしに合っていると思っていたし、あたしが最も輝ける瞬間はシングルスのコートの中にあると信じて疑わなかった。でも
シングルスとは言っても、必ずしも一対一の戦いではない。同じ学校の人間が応援に加われば、十対一にだってなりうる。そうして純粋な孤独に陥れられることも、少なくなかった。監督の指示の元、しぶしぶ応援に来るほかの部員は、味方ではなかった。かえってあたしのミスを待っているかのようだった。「早く終われよ」という声が聞こえる。
そうしてあたしの味方はいつだってゼロで、ときどき何と戦っているのか分からなくなる時もあった。
でもそんな時、マリエが来てくれた。他校の人間の試合であるにも関わらず、わざわざコートにやってきて「頑張れ」と言ってくれた。大きな声で、支えてくれた。その時の喜びは一生、忘れない。初めて味方が出来た瞬間だった。
十対二だって、あたしは無敵だった。
あたしの友人は、マリエだけだった。
生徒会長は立候補したものではない。多くの人間によって勝手に、祭り上げられたものだ。一番上に立つ人間の孤独を知ってて押し付ける、巧妙な嫌がらせ。でも
あたしは、逃げない。逃げたら、負けだ。完璧にその役割をこなした時、あの子達の負けが決定する。それまでの、辛抱。
あたしは絶対に、負けない。
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