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雅6(8月12日、7)


  七

 目の前を何かが横切る。
 次の瞬間、長髪の男が遠く、尻もちをついた。
 羽織っているシャツの首元を押さえているところから、襟を掴んで投げ飛ばされたのだろう。
「何だお前?」
 スキンヘッドが苦虫を噛み潰したような顔でうなる。
 あたしは目の前に現れた広い背中に焦点を合わせる。
 飛鳥様は、何も言わない。
 その背中は、ピリピリと電気を保持しているかのようだ。
「邪魔すんじゃねぇよ!」
 あたしは身体を強張らせて、目をつぶる。
 しかし次の瞬間、またもや聞きなれた声が届く。
「何、またお前?」
 そうそう。また・・・・・・
「あん時と全く同じセリフじゃねぇか。芸がないなー」
 驚いて右を向くと、のらりくらりと寝起きの鮫島先輩がこっちに向かって来るところだった。
 それを目にしたスキンヘッドの顔色が、頭のてっぺんから変わる。
「なぁ、おい。また俺と遊びたいの?」
 そう言って下を向いてあくびをしながら後頭部をかく。
 そうして不自然なほどゆっくりと顔を上げて、例の如く笑う。
「タコ」


「何、あいつら知り合い?」
 飛鳥様はそう言うと、持ってきたタバコに火をつけている鮫島先輩を見た。
「うん、ちょっとね。前にも一回遊んだことある」
 煙を吐きながら至極楽しそうに笑うと、「ね、雅ちゃん」と付け加える。
 あたしは曖昧に微笑むしかない。
 男達は帰っていった。というのも、あのスキンヘッドが頭だったらしく、その頭が一瞬にして戦意喪失してしまったからだ。
「いや、無理っす」
 そう言うと、男はあっさり背を向けた。なんだそりゃ。
 それはそうと、一体あの夜鮫島先輩は何をしたというのだろう。 あの男の震え方は尋常じゃなかった。
 軽く聞いてみると、鮫島先輩は「内緒」と言って、やはり笑った。

 ぽん。
 頭に体温を感じて、目上げる。そこには今まで見たことのないような、極上の笑顔があった。
「よくやった」
 飛鳥様はそう言ってぐりぐりと頭をなでると、もう一度、「うん、よくやった」と口にする。
 あたしは頬が熱くなるのを感じながら、ひどく複雑な気分になる。
 真琴はまだあたしの腕を掴んだままだ。
「いえ」
 夕日をその身体に目いっぱい浴びて笑う飛鳥様は、ほろ苦くあたしの胸に焼きつく。
 何故だか大声で泣きたくなってしまって、「いつまで掴んでんのよ」と、真琴に当たった。






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