93話 ついにSランク
レナの言葉が怖くはなったが、すでに酒を入れすぎていた。
「Aランクの奴を数人けしかけられると、危ないかもしれないな……。鎧もはずしちゃってるし……」
冒険者の習慣で剣のような武器はそのまま外さずにつけているのだが、鎧はさすがに脱ぐことが多い。重くて邪魔だからな。
「レナ、本当に殺気まではないんだな?」
「私の察知してる気配だとそうなります。さすがに私たちの実力は王様たちも知ってるでしょうし、うかつなことはやらないはずです」
それでも怖いことは怖い。
いったい、何を隠してるんだ?
そして、さらに部屋の空気が変わることがあったので、余計にびくりとした。
急にはしゃいでた声も小さくなって、静寂が訪れる。
なんだ? 何が起きてる?
幸い、敵ではなかった。
王様であるアブタールが部屋に入ってきていたのだ。
いくら、豪放磊落な冒険者でも王様の御前だと静かになる。
演台があるわけではないから、俺たちと同じ高さの場所に王がいることになる。さすがに緊張もする。
「みんな、今回はラクリ教関係史跡の探索、本当にご苦労だった。必ずや、ガートレッド王国の国益にもつながることであろう。すでに病気治癒に関する魔法が書かれてある資料があるらしいということがわかっている。この魔法を復元できれば、治療に役立てられるかもしれん」
冒険者の中から「おおっ!」という声が上がる。
それはたいした成果だ。俺達もやりがいを感じられる。
「これもすべては冒険者ケイジを中心とするパーティーのおかげである。あらためて、礼を言わせてもらうぞ」
「もし、ご期待に添えたようでしたら、幸いです……」
俺はパーティーを代表して小さくこうべを垂れた。
そこに王が最初に手を叩き出した。ほかにも手を叩く奴が出てきて、自然と拍手の音が響くようになった。
褒め殺しもいいところだな。正直、まんざらでもない。
でも、レナが空気が変で、みんな何か隠してるって言ってたんだよな。
まさか、ほかの冒険者が王様の登場を隠す必要もないし。
「そこで、この功績をたたえるには何をするべきか王として考えてみたのだが」
王様が俺達のパーティーをそれぞれ順番に見ているのがわかった。俺のほうにも視線が来た。
「ケイジ、ミーシャ、レナ――その三人をSランク冒険者に認定しようと思う」
「えっ?」
俺たちが反応する前に一斉に歓声と拍手が上がった。今度はぱらぱらと始まったんじゃなくて、最初から揃った音だ。
これ、先にわかっていたような反応じゃないか?
「黄金のSランク冒険者の腕章だ。国を代表して君たちにこれを渡そう」
そして、近くにいたミーシャに、まずその腕章を渡した。
「あ、ありがとうございます……」
まだ、ぽかんとしているミーシャ。俺もそうだ。そんな話、聞いていない。
それから今度は俺とレナのほうにも王様はやってきた。
「国家をこれだけ支えてくれたのだから、文句なくSランク冒険者だ。おめでとう」
「は、はい……。ありがたき幸せ……」
俺は恭しく、それを受け取った。
心なしか、これまでのAランクの銀色の腕章より重い気がした。
マルティナが「三人とも、Sランク冒険者おめでとう!」と声をあげて言った。
それに合わせて、大きな声が上がる。
「そっか……。ほかの冒険者は知らされてたんだ……。旦那、空気が変だったのは、これが原因なんですね」
レナが得心がいったという顔になる。
「なるほどな……。それなら話もわかる……」
王様は王様らしくすがすがしい顔をしているが、冒険者の中にはしてやったりといった顔をしているのもいた。
「せっかくだから驚かせようと思ったのだ。わざわざ儀式だった場を設けるのも冒険者にはふさわしくない気もしたしな」
「そうでしたか……。ちっとも考えてませんでした……」
そういや、ライコーもAランクだと謙虚すぎるとか言ってたよな。
Sランクになることを知ってるなら、すべてつじつまが合う。
「君たち三人がSランク冒険者となったことは明日、正式に公表される。これからも王国のために力を貸してくれ」
まだ実感もわかないままなので、とりあえず頭を下げた。
そして、レナに小さな声で聞いた。
「なあ、Sランク冒険者って何人ぐらいいるんだ?」
「大昔に認定された人は生きてるかもしれないけど、現役なのは私達だけなんじゃないですかね……」
それはまた責任重大だな。
うれしいというよりは、これからずっとSランク冒険者として見られることが大変そうだなという気持ちが強い。
マジで恥ずかしくないような生き方しないとな。
ただ、もうミーシャは肝が据わっているのか、それぐらい当然だと思っているのか、堂々と頭を上げていた。
「私達には重責ですが、選ばれたからにはしっかりとやれることをやるつもりです。王様、これからもよろしくお願いいたします!」
胸に手を当てて、ミーシャは宣言した。
選ばれてしまった以上はその役目を果たそうということだ。
「ああ、期待しているぞ!」
元気な声で王様が言った。