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92話 打ち上げの席で

 結局、四十日ほどかけて、地下34階層の倉庫はきれいになくなった。


 なお、一部の強力な装備品やアイテムは役得として俺達が持っていっていいことになっている。


 最高品質のものから一段階劣るものでも、十二分に使用に堪えるものが多く、そのうちの一部は今回参加した冒険者パーティーに配られた。正式には王から下賜されたものということになるが、ようは自由に参加者に配ったということだ。


「うわ! こんな剣、そうそうないぞ! 鋼の鍛え方が違う!」

「この鎧も軽い上に丈夫だ……」


 AランクやBランクの冒険者でも素直に喜べるものがいくつもあるから、侮れない。

 かなりの長丁場だったけれど、それでお釣りが来るぐらいに感謝された。


 終わった後、王城の一室で打ち上げの酒盛りが行われた。機密を扱っているという格好のため、普通の酒屋は使えないのだ。


 片方のパーティーのリーダーをしている剣士ライコーに俺はお礼を言いにいった。

「今回は本当にありがとうございました。おかげで想像よりもはるかに早く終わりました。それでもかなりの時間をとらせちゃいましたけど」


「いえ、最後にあれだけいいアイテムをもらえたんで、問題ないですよ。ちょっとした冒険をいくら繰り返してもあれだけの装備は手に入りませんから」


 それはそうなのだろう。おおげさに言えば旧文明の遺産みたいなものだからな。


「それにしてもケイジさんのパーティーは大きな仕事を成し遂げましたね」

 けっこう酒を飲んでいるのかライコーは上機嫌だ。

「大きな仕事っていっても荷物運びをずっとやってただけなんですけど……」


「普通の冒険者はあんなところで絶対に荷物運びなんてできないんですよ。ケイジさん、あなたはもう確実にこの王国最高の剣士です。胸を張ってください」

 ぽんぽんと背中を叩かれた。

「そういえば同業者に褒められる機会ってあんまりなかったかもしれない……」

「ケイジさんが立派すぎるから、並みの冒険者は怖くて近づけないですよ。雲の上の存在ですから」


 俺が雲の上だったら、ミーシャは大気圏突入してるぞと思ったが、俺だってAランクだからな。相撲で言えば、三役力士ぐらいまでは出世してるんだろう。そこまで行けない奴のほうが多いのはわかる。


「Aランクとして恥をかかないように頑張ります……」

「Aランクか。それじゃ、ちょっと謙虚すぎますよ。分相応に威張らないと」

「どういうことです?」

「多分ですけど、こういうのは勘でわかるんですよ」


 ライコーの言葉の意味がいまいちよくわからなかった。


 周囲を見ると、レナは仕事仲間の冒険者たちと酔っ払ってはしゃいでいる。友達を作るの上手いな。


 ミーシャはマルティナとなにやら二人で話をしていた。

 印象からすると、マルティナが一つ一つ疑問点をミーシャに尋ねているといった様子だった。


 そりゃ、ミーシャから教われることなんていくつもあるもんな。精進をおこたらない冒険者ほど熱心になるんだろう。


 王国最高の剣士って言われても、実感が追い付いてないんだよな。


 そんなことを思いながら、ちょっと一人で酒を飲んでいた。王国の酒の味にもすっかり慣れた。今だと日本酒を飲んだほうが違和感を覚えるかもしれない。


 そこに顔を赤くしたレナがやってきた。


「旦那ー! 飲んでますか!」

「ああ、飲んでるぞ。お前と比べると静かに飲んでるけどな」


 冒険者個々人によって当然異なる部分はあるが、一般的に冒険者は酒好きでそれもはしゃぐ奴が多い。次の冒険で命を落とすかもしれないような職業だから刹那主義的になるのかもしれない。

 なので、レナがほかの冒険者と盛り上がっているのも正しいと言えば正しいのだ。


 俺もミーシャもはしゃぐほうじゃないし、ミーシャは猫だったせいか、酒はほとんど飲まない。体があまり大きくないからというのもあるが。日本にミーシャを連れていったら、未成年扱いでお酒は飲ませてもらえないだろう。


「けど、この宴会、ちょっとおかしいぜ」

 奇妙なことをいきなりレナは言った。

「なんだよ、おかしいって……」

 不穏な言葉に酔いが醒めた。


 そして、気付いた。

 レナは顔は赤いが、目はまったく素面だ。自分の頭で考える用意ができている。


「どうも、何か私たちに隠してるんだ。私たちのパーティーを除いて密約でもあったんじゃないか? 私、そういうのはすぐわかるんでさ。空気を読めない盗賊はすぐに捕まるからな」

「縁起でもないこと言うなよ……」


 まさか、俺たちが知りすぎたってことで殺されるのか?

 たしかに考えなしに今は滅んだ宗教の記録を持っていったが、明るみになるとまずいものも交じっていたのかもしれない。


「殺気みたいなのはないし、仕事した連中は本気で酔っぱらってる。そんな恐ろしいことはないと思うが、おかしいことはおかしいぜ」

「襲われてもたいていの奴には勝てるとは思うけど、王都にいられなくなるとすると困るな……。屋敷も明け渡さないといけないし……」


 ミーシャにも一応伝えておくかな。

 ただ、魔法使いマルティナとずっと話していて、タイミングが難しいな。

次回は18日の更新予定です!

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