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84話 最高の剣

 俺たちは奥の部屋に入った。


「この埃っぽいのだけはどうにかしてほしいけどね……」


 ミーシャが顔をしかめる。たしかにガーゴイルが見張っていて、モンスターの出入りもなかったはずで、なんとも陰気な空気が漂っている。


「それぐらい、我慢できるほどに素晴らしい場所ですぜ」


 ただ、レナだけはそんなことどうでもいいほどに気分が盛り上がっているらしい。


 あまり意識してなかったが、レナの尻尾もぴんと立っている。

 おそらく、うれしいという意思表示なんだろう。猫のミーシャもうれしいと尻尾はそうなる。イライラしたりすると、横に振れる。その尻尾による解釈が多少間違ってたとしても、今のレナがうれしいことは確実だ。


 その部屋にもいくつも箱が置いてある。レナは早速調査にとりかかった。


「これだと、今回はこの階層で打ち止めね」


 ミーシャが座り込んで言った。

 確かにここで時間を食うのはしょうがないか。


 レナはお宝を調べたくてたまらないだろうし、歴史的にも価値のあるものがこれまでもかなり出てきてしまった。

 ダンジョンそのものの攻略を第一に考える冒険者としては無視してもいいのかもしれないが、このアイテムの山を放置するのは罪悪感がある。見つけてしまった以上は日の目を浴びさせる義務があるっていうか。


「まあ、冒険者って本来、ダンジョンのアイテムなんかも集めて稼ぐ職業だろ。だから、レナの反応が本来のものとも言えるし、ここはゆっくりやろうぜ」


「そうね。ライフワークのつもりでゆっくりダンジョンは調べることにしましょうか」


 そんな声も多分レナの耳にまでは届いてないだろう。

 一つ、一つ、箱を空いている場所に下ろす作業をやっている。


「この部屋のものは祭祀用の道具の中でも大型のものですね。これはいろんな色で円を描いた旗です。ポールの部分はないみたいですが」


 たしかに目がちかちかするような色づかいだった。現代アートみたいな感覚を受ける。


「これも絶対に高値になりますよ。100万ゲインぐらいは硬いな」


「そんな調子で値段がついていったら億万長者は確実だな」


 地下深くまで潜るのが常態化すると、もう金に困ることもないので、金銭的なことを気にしてなかったが、それでもうれしくはなる。


 だが、やがて冒険者としてもっと楽しくなるものが出てきた。


「これは剣ですね。大きすぎて、出すのも大変だな……」


 それは三メートルはあるような巨大な剣だった。

 レナはまず箱から出して、さらに大きな鞘から引き抜いた。


「これも祭儀用のやつなんでしょうな。いくらなんでも、こんな武器を振り回せる剣士はいないでしょう」


 そう言われると、持ってみたくなるのが人間というものだ。


「ちょっと試してみる」


 たしかに純粋に重い。


 あと、天井が低いから剣を縦にすると壁にぶつかるだろう。少し浮かせてから下ろした。


「これは剣のゾーンにぶち当たったな。しばらくずっと剣ですぜ」


「なあ、いい剣はないかな?」


「ああ、気持ちはわかりますけど、あまり期待しないでくださいよ。いい剣がダンジョンで見つかることは珍しいですからね……」


 レナはプロだからこそ、そのへんは納得したうえで調べている。

 一方で、こちらはもしかしたらという気持ちを捨てられない。


 ミーシャは手持ち無沙汰なのか、箱を空いているところに出していく作業をやっていた。今のところ、モンスターもやってこない。


 そのあとも、青銅で武器にしてはやわらかすぎたり、サイズが不自然に大きかったりと、実戦使用が前提でないものが続いた。どれも祭祀用の形式的な武器ということだろう。


 やっぱり、地下深いところに店では絶対に買えないような伝説の剣があるなんてことは現実にはないのだろうか。


 そんな俺の気持ちをよそに、レナの作業はたんたんと、しかしスムーズに続いていく。

「だんだんと、レナが盗賊というより考古学者に見えてきたわ」

 ミーシャがそんなことを言った。その表現には、少しばかりの敬意が込められている気がした。


「私は学者になんてまったくなりたくないですけどね。でも、いいものは盗んできたから、そういう目は肥えてますぜ。あっ、ここから剣のサイズが小さくなるな」


 たしかにレナが箱から出す剣が小ぶりになってくる。


 小ぶりといっても、もし武器にするならちょうどいいサイズだ。最初のほうの剣が大きすぎた。



「あんまり錆びてもないな。このへんのやつは、使えそうですけど」


 レナが剣を俺のほうに出してきた。

 たしかに、さっきまでの明らかに実戦が前提でない剣と比べると、武器として違和感がない。もしかすると、祭祀の中で、さっきの大きな武器とは使い道が異なるのかもしれない。


「使えはするだろうな。ただ、剣としていいかはまた別だ」


 握った時にしっくりこないのだ。そういう剣はやっぱりたいしたことない。

 冒険者として一人前になってくるとそういうのが感覚的にわかる。

 あと、感覚以上にはっきり認識したければ「鑑定(剣)」という技能を持っているので、それを使えばいい。


 しかし、それでも試せる剣がどんどん出てくるというのはいいことだ。


 そして、レナが小ぶりになってきたと言ってから五本目。


 明らかにそれまでより鞘が高価な剣が出てきた。


 刀身も長らく地下で眠っていたとは思えないほどに輝いている。


「旦那、これはすごいのが出てきましたぜ……」


 レナにもそれがわかったらしい。


「だよな……。伝説的な名剣の域かもしれない……」


 俺の直感もこれが素晴らしいものだと告げていた。


 レナに渡された剣を握ってみる。


「あっ、これは俺がこれまで使ってるやつより絶対にいい……」


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