62話 ミーシャ、勧誘される
初日は土ドラゴンを3体倒して、巣を一つ破壊することに成功した。
ドラゴンは賢い生き物だし、ここに住むのが危険だとわかれば、自然とどこかへ移住していくだろう。
日が暮れてきたので、森の外のキャンプ地に戻って、同行してきていた王国の軍人に戦果を報告する。
「早くも土ドラゴンを三体も! やはり、あなた方の実力はとんでもないですな!」
手放しで俺たちは褒められたが、みんな後ろめたいような顔をしていた。
ミーシャ一人を除いて。
どう考えても、ミーシャが出した成果だからな……。
ほかの奴が威張ると、みっともないというか、成果泥棒というか……。
やがてもう片方のパーティーも満身創痍で戻ってきた。
土ドラゴン一体を森から追い出すのが精一杯だったという。
それでもなかなかの成果なはずなんだけど、こっちが素晴らしすぎるからな。
王国は料理人も連れてきてくれていたらしく、モンスターと戦うキャンプとは思えないほど、豪華な料理が仮設のテーブルに並んだ。
「ああ、なんか昔、子供の頃に食べてたような味だぜ」
もともとお嬢様だったレナはなんとも思ってないらしいが、ほかの人間はたいてい舌鼓を打っていた。
と、食事中、マルティナのパーティーがずらっと勢ぞろいして俺たちの前に並んだ。
かなり真剣な顔だ。
「ん? 一体なんです?」
俺はテーブルから体をそっちに向ける。
「皆さんにパーティーに入ってほしいんです」
リーダー格の剣士が率直に言った。
「姉さん……ミーシャさんの力を借りて、手柄をあげようってわけじゃないんです。むしろ、その戦い方を横で見させてもらえれば、このパーティーももっと成長できるんじゃないかなと思って」
高位の冒険者は戦うことが生きがいみたいなところがあるから、強くなりたいという気持ちが強いんだろう。
「ミーシャ、お前が責任もって答えろ」
俺はちらっとミーシャの顔を見る。ちょうど牛肉を口に入れていたところだった。
ミーシャは肉を飲みこんで、口をナプキンでぬぐってから――
「お気持ちはうれしいわ。でも、私は私のペースで生活がしたいの。パーティーには合わせられないわ」
「だったら、ミーシャさんのパーティーに――」
「どっちにしても大所帯すぎるでしょ」
ミーシャの言葉は正論だ。
というか、彼らも無理があると思っていたからこそ、全員揃って誠意を見せるような必要があったんだろう。
「そうですね。ご迷惑をおかけしました……」
「わかってくれればいいのよ」
ミーシャがやさしく笑う。
「あの、一つ質問していいかしら」
魔導士のマルティナが尋ねる。
「どうぞ」
「姉さんは、まだAランク冒険者にすらなってないわよね。間違いなく、Sランク冒険者にすらなれる実力なのに、どうしてその地位を手にしようとしないの?」
そうか、AランクとかSランクって冒険者にとってのステータスなんだな。
「そんなの簡単よ」
なんでもないようにミーシャは言う。
「私、もっと大切な目的があるもの。だから、冒険者のランクなんてどうでもいいの」
そして、隣の席の俺の手をぎゅっと握った。
「大好きな人と一緒にいるほうが楽しいし、大好きな人に理解されるなら、ほかのすべての人に誤解されたっていいわ。あなたもそう思わない?」
これはちょっと気恥ずかしいけど、悪い気はしなかった。
「見せつけられちゃった……。そうね、人の求めるものはそれぞれだものね」
マルティナも納得したらしい。
「はぁ……馬車でご高説垂れた記憶を消したいわ……こんな伝説的な冒険者にとんだ道化……」
たしかに、こんなチートな冒険者が交じっているとは思ってなかっただろう。
「私、異世界出身者で、Aランク冒険者にまではなれたし、自分は優秀だって思ってたけど…………今となってはすべて黒歴史だわ……」
「あまり危険なことをするなっていうのは正しいことだし、別にいいじゃない」
ミーシャがフォローを入れた。
こうして相手パーティーの勧誘工作は失敗に終わった。
「なんだ、なんだ?」
「土ドラゴンを打撃だけで倒した冒険者がいるらしい……」
「それ、ドラゴン以上のモンスターじゃない……」
ほかのパーティーにもミーシャの噂が着実に広がっているな。
食事のあと、明日の計画みたいなものが初老の一匹狼冒険者から発表された。
一人で冒険者をするというのはパーティーを組むよりはるかに大変だ。
なので、自然と敬意を払われて、全体のリーダーのような立ち位置になっている。
「せっかくだし、毎日、パーティー同士の組み合わせを変えていきたいと思う。ほかの冒険者の戦い方が見れるのは大事な機会だし、どこにモンスターがいたというような情報も共有できるかもしれない」
反対意見はない。
あっさりと2日目以降の組み合わせも決まった。
今度ご一緒するパーティーはちょっと変わった職業の人間がいた。
「あっ、イタチだな。姉御、すごくかわいくないですか!」
「ほんとだ、しかも三匹もいるわ!」
レナもミーシャもイタチたちを見つけてはしゃいでいる。
首輪みたいなのがついてるからペットなんだろうか。
「ああ、それは僕の使っているフェレットです」
あまり冒険者らしくない優男がやってきた。
「僕、魔物使いでその子たちを使ってるんですよ」