60話 ドラゴンと遭遇
森の入口についた俺たちは早速中に入ろうとしたが――
「お前たちは最後に来い。危ないからな」
ほかのパーティーの男に言われた。
「みんな、先輩風を吹かすのね」
ミーシャがそうっと言った。とくに気にしてはいないみたいだった。
「まあ、誰もお前の恐ろしさを知らないからな」
「ご主人様だって、相当強いわよ。別に遅れを取ることはないはず」
「まあ、今は素直にみんなに従うか」
いきなり波風を立ててもしょうがないしな。
パーティーごとに順番に森の中に入る。
墓への参道自体は一本道だから、ひとまずはその石畳に沿って入っていく。
ぱっと見、モンスターはいないなと思ったが、前方にある木が動きだした。
誰かが声を上げた。
「リヴィング・ウッドだな! しかもかなり育ってるぞ!」
たしかに十メートル以上あると思う。
ダンジョンにはいない大型モンスターだな。
場所柄、まずはほかのパーティーが戦うのを見ることになりそうだ。
そのパーティーは執拗にリヴィング・ウッドの根っこを攻撃していた。
枝で殴りつけられるのをかわしながら、根っこに剣を突きつけたり、かまいたちの魔法で切り裂いたりしている。
「炎で焼けばよさそうなものだけど」
「姉御、それだと山火事になりますぜ」
たしかに王家の墓を焼き尽くすわけにはいかないよな。
禁止事項として言われてはないけど、それは当然のことだから空気を読めってことなんだろう。
ただ、根っこだって動く、というか、根っこが動いてリヴィング・ウッドは歩いているのだ。
根っこに吹き飛ばされる人間も出ていた。
その都度、パーティーの聖職者が回復魔法をかける。
ひとまずは問題なく戦えているらしい。
やがてリヴィング・ウッドが倒れた。
文字通り、参道をふさぐように大木が倒れたのだ。
ドロップした魔法石もこれまで見たことがないぐらい、巨大なものだった。
おそらく、アレを売るだけでかなりの収入になるはずだ。
前のほうでなにやら話をしている。
「やはり、高レベルのモンスターが多そうだな」
「これは王国の軍隊じゃ無理だわ」
「気を抜くと、ケガじゃすまんな」
今回のクエストの難しさをあらためて感じ取っているらしかった。
「みんな、聞いてほしい」
王城の地下室でどこのパーティーにも属してなかった初老の男が言った。
「この人数で縦隊になってもしょうがない。ここは大きく二手に分かれて、モンスターの掃討をしよう。この石畳にまでたどりつけば帰ってこれる」
ほかのパーティーも賛成を唱えて、俺たちは石畳の右側を攻める側に決められた。
馬車で俺たちに忠告をしたマルティナのいたパーティーなどと同行する。
「また、一緒になったね」
マルティナが横に来て話しかけてきた。
パーティーごとに固まる必要はないらしい。
「よろしくお願いします」
さっきのリヴィング・ウッドだってはさまれたら、かなりの脅威だし、それなりに緊張している。
「大半は5人いるうちのパーティーでどうにかするわ。これだけ冒険者がいれば、モンスターの数が少ないなら確実に仕留められるから」
その作戦はそんなに間違ってないんだろう。
実際、ウシかと思うような大きな昆虫が出てきたが、そのパーティーが苦戦しつつも倒していた。
次はデカいモグラみたいなのが出てきたが、これは俺とレナも攻撃を加えた。
一方でミーシャは見た目が一番ひ弱に見えるせいか、後ろに下がらされて、活躍できていなかった。
「レナのほうが私よりお嬢様なのに……」
戦闘に参加させてもらえないので、ミーシャの機嫌が少し悪くなりだしていた。
「そう、腐るな。ぶっちゃけミーシャの魔法は威力が強すぎて混乱を招くかもしれん」
とくに炎でも撃ったら、このあたり一帯が燃え尽きるぞ。
「わかってるわ。あんまり見せびらかすのも格好悪いし、ここは静かにしてる」
ミーシャは表面上、回復魔法だけを使って、途中からは戦闘には自信がないキャラを自分から演じていた。
だが、順調に狩りをしていたところ――
前のパーティーのところに巨大なモンスターが顔を出した。
ゾウみたいなサイズの何かだ。
ただ、顔はトカゲに近い。
「土ドラゴンが出たぞ!」
向こうのリーダー格の剣士が叫んだ。
ああ、これが土ドラゴンなんだ。
「みんな、広がれ! でないとまとめて吹き飛ばされるぞ!」
そう言った直後に、土ドラゴンの腕が伸びて、その剣士を吹き飛ばした。
「くそっ! くたばれ!」
パーティーの戦士が巨大なウォーハンマーで殴りつけるが、打撃はほとんど効いていない。
俺も背後から斬りつける。
ウロコが硬くて、はね返される感触が来る。
「旦那! 離れろ!」
レナの声にすぐに反応する。
俺がいたところに尻尾がムチみたいに叩きつけられていた。
今のをくらったら大ケガだ。
たしかにこのドラゴン、とんでもないな……。