42話 結婚申し込み
意外な所から結婚フラグが来ましたが……。
「はい。あなたが娘の命を助けただけでなく、ガイゼルが近づいた時もミレーユの追っ手だと思い、命懸けで守ろうとしてくれたことはすでに聞いています」
いつ聞いたんだと思ったが、おそらくレナがガイゼルに伝えて、ガイゼルが使いの者でも放ったんだろう。
情報がいつの時代でも価値を持つから、そういう伝達手段を貴族は持ってるはずだ。
「これだけの恩に報いるには土地ぐらいしか思いつきません」
「あの、よろしいでしょうか」
そうミーシャが口をはさんだ。
「土地を持つということは、それってご主人様が貴族階級になるということですか?」
あ、そうか、たんに金持ちになるって次元の話じゃないな……。
「そうですね。荘園を管理する時点で最低でも一代限りの爵位である男爵にはなりますね。ただ、ケイジさんはAランクの冒険者であるとか」
「はい、先日なったばかりですが」
「それなら、たんなる冒険者から騎士階級に昇進してもおかしくないですよ。私から推薦すれば問題なく通るはずです。それなら土地を世襲できる子爵ということになります」
話が想像の斜め上でいまいち想像が追いつかない……。
貴族になることなんて三分前まで一度も考えたことなかったぞ。
「部下なんて実質、誰もいないので、ちょっと難しい気が……」
いきなり一般市民が村長や町長になるようなものだろう。自分ができる気はしない。
「ああ、そのことで、妻とも話したのですが」
空咳をすると、レナの父親は奥さんのほうと目を合わせた。
なんで夫婦で話し合う必要があるのかよくわからないけど、まあ、奥さんのほうもこの地位なら政治家みたいなものなのかな。
「ケイジさん、あなたに私たちの娘、ミレーユの娘婿になっていただきたいのですが」
「む、婿っ!? けほっげほっ!」
俺は思わずむせた。
予想外の展開がさらに深いところに進んだぞ……。
ミーシャは黙っていたが、尻尾がぶんぶん左右に動いていた。
ああ、これ、かなり怒ってるぞ……。
ただ、冷静な反応ができてないのはミーシャだけじゃない(いや、そもそも俺もだけど)。
レナも赤い顔をしていた。
「親父、それは……ダメだって……。何を言い出すんだよ……」
「何を恥ずかしがっているんですか。身を隠すためとはいえ、使用人として暮らし続けるほうがよほど恥ずかしいですよ」
奥さんのほうが厳しい目で言った。
「かといって、今になってほかの貴族のところに嫁ぐのだって嫌と言うでしょう? それならあなたを救ってくれた殿方と一緒になって、土地の一つでも治めなさい。いい妥協点だとは思うけれど」
「いやいや、妥協って、こっちの気持ちのことも考えてくれよ」
「なんだ、ケイジさんのことは好きではないのか?」
父親のほうがちょっと意外そうな顔になる。
「いや、好きとか嫌いとかじゃないんだって……。もちろん、旦那には世話になってるし、いい人だとは思ってるけど……」
こほん。
ミーシャが意味ありげな咳をした。
これは「私のこと、忘れないでね」という意味の咳だ。
まあ、レナもそこのところはよくわかってるだろう。
「あのな、旦那にはすでに姉御っていう奥方がいらっしゃるんだ。当然、冒険者同士だから、貴族の価値観で言う夫婦とはちょっと違うかもしれないけど、二人は私が同じところに住む前からずっと一緒で、屋敷も持ってたんだよ!」
一度、レナの表情が少しゆるむ。
これで責任は果たしたといった表情だ。
たしかに妻がいるということになれば、話もおさまると思ったんだろう。
でも、貴族の価値観を俺たちはまだわかってなかった。
「まあ、そういうこともあるだろう。何人目であろうとミレーユ、お前が正室ということになれば問題はない」
いや、問題あるだろとツッコミを入れたいが――
貴族的にはこれでいいらしい……。
「そちらの猫の獣人の方には申し訳ないですが、側室ということになっていただきましょう。もちろん、冷遇することはいたしませんよ。セルウッド家の女性はみんな私が地位を保証しますし、困ったことがあれば相談に来てくださればいいですわ」
したり顔で奥さんのほうが言った。
なるほど、大貴族ともなると家というより、組織なんだな……。
当主の奥さんが一族に関係する女性のトップの地位にあって、その身分を守るようなこともしているのだろう。
さらにミーシャの尻尾が振れている。
これは相当ご立腹だ。
ここは俺からも一言言っておかないとダメだな。
「あの、俺はミーシャと永遠の愛を誓っていまして……妻はミーシャしか持たないつもりなんです」
貴族の間では別として庶民の発想だと一夫多妻的な家族観が普通ってことはないだろうから、これで理解してもらえるだろう。
「でも、そのミーシャさんは先ほど『ご主人様』とおっしゃられていて、とても対等なようには聞こえなかったが」
当主に不思議そうに言われた。
それは、こっちが悪いのかな……。まあ、対等なカップルには聞こえないもんな……。
「ええとですね……ミーシャはもともとの身分が低くてその名残っていうか……」
「とにかく! 二人はちゃんと愛し合ってて私が入りこむ余地なんてないんだ! これ以上この話を続けるなら、すぐ帰るからな!」
レナが立ち上がって、大きな声をあげた。
「だから、嫌なんだよ。戻ってきたと思ったら、家をどうするかって話をするし……。こういうのがやってられなくて、私は出ていったんだ」
それはレナの本音だろう。
きっと、こういう会話ばっかりでがんじがらめになることもあったはずだ。
「そうだな……わかった……。結婚の話は一度取りやめる。別に不幸な結婚をさせてもしょうがないしな……」
当主は納得してくれたらしい。
そのあと、俺のほうに顔を向けて――
「しかし、御恩には報いたいと思うので、形だけでも荘園を手にしていただけませんかな? 土地の管理自体はこちらでいたしますので」
「そういうことなら……」
こうして俺は制度上は貴族の一員ということになったのだった。
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