36話 試験勉強
俺は屋敷でずっとテスト勉強をしている。
もうすぐ正式にAランク冒険者になるための試験があるのだ。
それで成績が悪かったらBランクに落とされる。
つまりまだ俺は暫定Aランクなのだ。
過去に出題された問題はギルドから借りれるので、それで勉強をしている。
「『冒険者はギルドに申し出て、自分から降格を行うことができる』って、こんな例外規定、いつ使うんだよ……」
高校時代のテスト勉強を彷彿とさせるものがあるな……。
「はい、お茶ね」
ミーシャもちゃんとお茶を入れてくれる。
昔はお茶なんて入れるわけないでしょって態度だったんで、相当変わったな。
「わからないところはある? だったら教えてあげるけど」
すでにミーシャはざっと過去問を解いていた。
ミーシャは気まぐれだが、その分やる気になったものはとことんやる。
猫の血液型なんて知らないが、きっとB型だと思う。
「まだ覚えてる段階だから大丈夫だ……けど、意外と量があるな……」
一時間も勉強すれば充分なレベルかなと思ってたら、全然そんなことなかった。
これ、三日ぐらいはかかるだろうな。
「これはAランク以上に変なのが紛れこまないようにするための策なのよ。ほら、武力を使うことしか能のない奴がなったら、イメージが悪くなるでしょ」
「なるほどな。最低限の知性がある奴しか上に来れないシステムにしてるのか……」
別に知識がAランクでの仕事にそのまま必要というわけではなくて、それぐらいの勉強をちゃんとやるような奴を採用してやるぞということだ。
「私が見てあげるわ」
頼んでもないのに、ミーシャが横に座る。
「じゃあ、お願いするかな」
なんか、こういうのも新鮮でいいな。
学校で、同級生と付き合ってるような……。
とはいえ、ミーシャの教育はけっこうスパルタだった。
「ああ、そこ、間違えてるわ」
「それ、解釈がおかしい」
「そこ、逆に覚えてない?」
ビシバシ指摘してくる……。
あんまりあまあまな空気はなかった。
大きな単元が一つ終わったら、ミーシャがお茶をまた入れてくれた。
「お前、教育する時は容赦しないよな……」
「だって、ここで甘やかしてAランク冒険者になれなかったら、恥をかくのはご主人様よ。私、ご主人様につらい思いはしてほしくないの」
「そう言われると俺も努力するしかないな……」
ミーシャが俺のために教えてくれているのに、手は抜けない。
また、気合を入れなおして、ページを開く。
「そうね、それなりにやれてはいるようだけど」
ミーシャが言葉を一度止めた。
何か考えているんだろう。
「ここは、ペースアップさせてあげようかしら」
「なんだ、そんな魔法なんてあるのか?」
それにしれは、ちょっと小悪魔っぽい表情をしてるんだよな。
ミーシャが俺に耳打ちする。
「過去問でいい点がとれたら、えっちなことしてあげる」
俺は生唾を飲んだ。
「じゃあ、私は少しレナの掃除でも手伝ってくるわね」
そう言って、一度、ミーシャは席をはずした。
なんてことだ。
一言、誘惑みたいなことを言われただけなのだが――
集中力が三倍ぐらいになって、やたらとすぐに覚えられる!
男ってどんだけ単純なんだよと我ながらあきれる。
そして、過去問に挑戦する。
これまで覚えたことをそのまま書き出していくだけだ。
そんなに難しいことじゃない。これまでに何人もクリアしてきたことだ。
高校の時のテスト技術を使え。
わからない問題はパスして先にいく。
とはいえ、まったくわからない問題はほとんどないので、怪しい問題も二つに一つぐらいは合っているだろう。
答えがAかBか迷ったら、直感を信じる。だいたい直感のほうが合っている。
長くかかりそうな問題はあとまわしにして、残り時間でじっくりやる。
ちょうど終わった頃にミーシャが戻ってきた。
「過去問をやってたのね。どう? 上手くやれてる?」
「かなり手ごたえはあるぞ」
「じゃあ、採点は公平を期して私がしてあげる」
結果。
8割以上、正解していた。
余裕の合格点超えだった。
「……よくこんなに成長したわね」
採点したミーシャも驚いていた。
「そうだな……。さっきと比べても劇的な進歩だ……」
「やっぱり、私がえっちいことしてあげるって言ったせい……?」
ミーシャもまだ信じられないような顔をしていた。
「はっきり言ってそうだと思う……」
そう答える俺も恥ずかしいが、ここまでよくなっている以上、関係ないってことはない。
「男は単純なんだ……。ご褒美があるとすごいやる気を出す……」
「はぁ……なんか猫より動物的ね。でも、猫に二言はないわ」
いきなりミーシャは俺のくちびるをくちびるでふさいだ。
かなり長いキスだった。
「ふふふ、いきなりしちゃった」
妖艶にミーシャが笑う。それで勉強疲れのことも忘れた。
「じゃあ、続きは私たちの寝室でしましょうか」
俺たちはそのあと、激しく愛し合った。
やっぱりミーシャはかわいい。
激しい恋愛ほど冷めやすいっていうけど、俺とミーシャの場合は助走期間が長かったから問題ないようだ。
おかげで夕食の時間――
「旦那、やけに疲れてるようですけど、勉強のせいですかい?」
レナに心配された。
「いや、もしかすると違うことで疲れたのかな……」
「逆に姉御はやけに肌がつやつやしてるような」
「な、なんでかしらね……」
ミーシャも言葉を濁した。
「とにかく、ご主人様が筆記試験は問題なくクリアできそうになってよかったわ」
「うん、ありがとうな、ミーシャ」
「さて、じゃあ次はAランク冒険者にふさわしいステータスにしましょうか」
ミーシャはもう次のことを考えている。
「また、レベルを上げるわよ」