34話 武術大会4
準決勝がはじまった。
シルヴァーンは空気からしてこれまでの対戦相手と違う。
なんていうか、独特の余裕みたいなものを感じる。
それは一種の個性だ。
ここまでハイレベルな冒険者になると、自分だけの空気みたいなものを作り出す。
おそらく、自分の型みたいなものがはっきりと定まっているからだろう。
それと比べると俺はまだまだ冒険者の期間が短いから、そういうのはないと思う。
別に悪いことじゃない。発展途上ってことは、まだまだ上を目指せるってことだ。
観客席のミーシャの顔が見えた。
両手を握り締めて、勝利を祈ってくれていた。
ミーシャ、この戦いの勝利、お前にプレゼントしてやる。
先に俺から動いた。
距離を詰めて、剣を振るう。
俺がLv23、相手がLv25。その差はほとんどない。
序盤から先に仕掛けて主導権をとったほうがいい――そう思った。
けれど、攻撃は全部相手の剣に防がれた。
「成長株だけあって悪くないな。だが、まだ甘さが残っている」
半分褒められて、半分ダメ出しされた。
たしかに敵の言うとおりなんだろうな。
「まだまだ!」
立て続けに仕掛けるが、やっぱり剣で守られる。
守られるだけならいいのだけど、その次の展開も見据えた防御をされるので、なかなか崩せない。
これまで俺は対戦相手の動きを読んでいたが、それの逆をやられているらしい。
まだまだ強くならないとダメみたいだな。
だけど、現時点の力試しにはちょうどいい。
思わず、俺は笑った。
「いい戦いができそうだ」
「そうか、こんな局面で笑えるか。お前、大物になりそうだな」
シルヴァーンも釣られたように笑った。
そして、一度シルヴァーンはこちらの間合いから離れて、距離を充分に空けると――
今度はこちらの力を見せるぞとばかりに攻撃に転じて、突っこんでくる。
「しかし、まだこちらに分があるようだな、若造!」
この攻撃を剣で防ごうとしても、防御に徹するしかなくなる。
おそらく、それだと逆転の芽も摘まれるだろう。
「ご主人様、やれるわ!」
その声がすっと俺の耳に届いた。
「モンスターともさんざん戦ってきたはずよ! 怖くなんてない!」
ありがとう、ミーシャ。
俺の中でも覚悟が決められた。
剣を握り締めて、シルヴァーンに正面衝突するよう前に走る。
守るのではなく、攻める。
そこに勝機を見出してやる。
「なっ、お前も来るのか!」
シルヴァーンも意表を突かれたようだったが――
すぐに、豪放に笑いだした。
「やはり、若造は面白い奴だ! こちらも全力でやってやろう!」
両方が激突する。
勝とうが負けようが勝負はすぐに決まるだろう。
加速をゆるめない。
チキンレースみたいなものだ。
守りに入ったほうが負ける。
腕力だけならまだ敵のほうが強いだろうから――
俺はシルヴァーンの手を狙う。
もちろん、向こうもこちらを吹き飛ばすように剣を振るってくるだろうから、一か八かだが。
「若造、これで終わりだ!」
シルヴァーンも袈裟切りに剣を振るう。
風圧のようなものを感じる。
逃げるな。これに抵抗しろ。
行けっ!
思いきり剣を振るう。
俺も剣を一閃させる。
俺が木刀に叩きのめされる一瞬前――
シルヴァーンの剣が宙を舞った。
それから、からんころんと地面に落ちる。
つまり、シルヴァーンは武器を失った状態になっている。
シルヴァーンは苦笑しながら両手を挙げた。
「こちらの負けだ。若造の捨て身の攻撃にやられた」
わずかな間を置いて、歓声が響いた。
「優勝候補のシルヴァーンがやられた!」「あの若い奴、どんだけすごいんだ!」
そんな賞讃よりも驚きが強いような言葉が聞こえる。
でも、なによりもうれしい言葉がある。
「おめでとう、ご主人様! ご主人様は男の中の男だわ!」
ミーシャが身を乗り出しながら、エールを送ってくれていた。
俺もちょっとはミーシャに近づけたかな?
だけど、まだ戦いは終わっていない。
決勝に行く権利を得ただけだ。
優勝までもう一つ勝たないと。
その対戦相手は数分後には決まっていた。
レナが敵のふところに潜りこむと、思いきり拳を振り上げて、敵をノックアウトしていた。
敵を気絶させれば文句なしで勝ちだ。
だから、あえてレナはナイフを使わなかった。
「希望通りになりましたね、旦那」
控え室に戻ってくる時、レナがにやりと笑う。
「私は本気でいきますぜ。ここだけは旦那に花を持たせるわけにはいかないです」
「俺も優勝させてもらうぜ」