EXTRA1 弱々しい鞘当て
今回はケイジが出てこないのでミーシャまわりの三人称視点になります。
※今回は主人公ケイジの一人称ではなく三人称でお送りします。
――ミーシャが家事修行から復帰した翌日のこと。
「ねえ、レナ、あなたに確認したいことがあるんだけど」
ミーシャが朝からレナのところに来た。
なお、ミーシャが一日目に張り切りすぎたので、結局今日の料理はレナが主に作ることになった。このあとは料理や掃除も当番制にする予定だ。
なので、場所も台所だ。レナは卵を焼いている。
「はい、姉御、いったい何ですかい?」
「あのね……率直に、率直に……聞くわよ……」
すでに聞き方が率直とは言いづらかった。
「そのね……まあ、こんなこと聞くまでもないとは思うんだけど……その……」
「姉御、結局何なんです? 全然わかりませんぜ」
ミーシャはなぜか顔が赤くなっている。
ミーシャはケイジには何でもかんでも言うが、ほかの人間にはけっこう気が弱い。
「あ、あ、あのね、私が修行に出ていた間……な、何もなかった……?」
「何も? 何もとは? 姉御、もうちょっとわかりやすく言ってくれねえと盗賊でも察することができねえですぜ」
「つまり、ご主人様と何もなかったかってことよ!」
耐えかねて、叫ぶような形になってしまった。
ミーシャとしてはそれが一番気になることらしい。
「ほら、私、三日ぐらいで終わるつもりだった特訓期間が一週間になったでしょ……。そんなに家を空けてるつもりはなかったから……その間、メイドのあなたと何かご主人様にあったらなんて……」
ミーシャは余計なことを想像して、怖くなったのか、ぶんぶんと頭を振った。
「ああ、そんなことですかい」
レナは屈託なく笑った。
「そんなこと呼ばわりしないでよ……。私にとっての最重要項目なんだから……」
「姉御、それは考え過ぎですぜ。姉御と旦那の仲ぐらい私だって知ってますし、そこにくさびを打ち込むようなことをするわけないじゃないですか」
ぽんぽんとレナはミーシャの肩を叩く。
安心していいというボディランゲージだ。
「そ、そうよね……。それならいいのよ……。」
「そうですぜ。だから、姉御はずっと旦那といちゃらぶしてたらいいんですぜ――――あっ」
何かレナは思い出したらしい。
「あれは一応報告しとくべきかな……」
「ちょっと! どうして、そこで考えこむのよ!」
ミーシャの顔に不安が浮かぶ。
「あの、あくまでもどうってことのない話なんですが……。報告はしておくほうがいいかなと……」
「ええ。逐一、具体的に報告しなさい」
「旦那とダンジョンに行ったんです。ほら、ティアラを手に入れた時のことです」
「ああ、その時のことね。それで何があったのよ? まさかキスをしただとか、それ以上のことがあっただなんてことはないわよね……?」
「私、疲れて眠ったんですけど、頭が旦那の肩に寄りかかってたんですよね。それで起きて気づいてって、それだけなんですけど……」
「ご主人様と長時間触れてたってわけね」
かなり基準の厳しいミーシャの判断だった。
「もちろん、それ以上何も起こってないですぜ? 旦那もゆっくりこちらを寝かせておこうってしただけですし!」
とはいえ、レナもそのことを思い出して、微妙に頬が紅に染まる。
肩に寄りかかって眠るだなんて、いかにも恋人がしそうなことだったからだ。
「何も起こってないなら照れないでよ……。私のご主人様なんだから……。あなたの所有物じゃないんだから……」
「そうですよね……。私もおかしいとは思うんですが……」
「ほかにはないのね……?」
追及の手はまだ続く。
「もう何もないです」
「ま、まあ……それぐらいならいいわ。むしろ、起こさないまま放っておいたご主人様のほうに問題がある気もするし……。あなたに罪はないから」
ひとまずミーシャの不安は解消されはしたらしい。
ただし、まだミーシャの顔は微妙に晴れていない。
「今後のことも考えて、ご主人様をちゃんと教育しておくほうが安全かもしれないわね」
浮気だけは絶対にやらせないぞと思うミーシャだった。
「あ、そうだ、もう一つありました。たいしたことじゃないんですが」
「いったい、何よ。まあ、どうってことはないんだろうけど」
「旦那が風呂に入ってる時に背中でも流してやろうかと裸にエプロンで出向いたら、ものすごく慌ててましたね。ちゃんと隠すところも隠してたのに、何だったんですかね」
「あなた、わざとやってるなら承知しないわよ!!!!!!」
レナへの教育も積極的に行っていかないとまずいぞと誓ったミーシャだった。
新連載を開始しました。まだ1話しかアップしてませんが……。「へんしん! 巨大キャタピラーに転生した俺と魔物使いのエルフ少女が天下を取る!」という小説です。
会社員グレゴールが朝起きると虫になっていた!? しょうがないエルフ少女に世話になるか……という話です!
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