28話 修行からの帰還
みーしゃ、家事修行から帰ってまいりました!
そして、ミーシャが修行に行ってから5日が経った。
思ったより長く行ってるな……と思ったら、おかみさんから手紙が来た。
3日で帰すつもりだったけど、あまりにもひどいのでさらに数日預かると書いてあった。
結局、まるまる一週間経って、ミーシャが帰ってきた。
「待たせたわね!」
やたらと堂々とミーシャが入ってきた。
「今までの私は死んだの。これからの私こそ、本当の私よ!」
なんか宗教家みたいなことをミーシャは言っていた。
「姉御、おつとめお疲れ様でした!」
レナよ、それだと犯罪者が出所してきたみたいに聞こえる……。
「ふっ。あなたも今までの私だと思うと火傷するわよ」
なんでだよ! 炎魔法でも使うのか。
「まず、この一見、片付いてるように見える部屋もダメね」
ミーシャはガラス窓の下に指をつつつと這わす。
「ほら、まだほこりが残ってるわ」
小姑みたいなこと言ってる!
「す、すみません、姉御……」
「あなたのレベルは所詮、お掃除が得意な一般人程度。一方、私は清潔であることが必要な宿で教育を受けたの。まったく実力が違うのよ!」
そして黙々と部屋の細かい箇所まで掃除をやりはじめた。
「すごい! ミーシャが掃除をしている! 槍が降るかもしれん!」
「失礼ね! 私の能力をもってすれば、これぐらいどうってことないのよ!」
たしかに、かなり徹底した掃除内容だった。
レナが「こいつはすげえや……」と言っていたから間違いない。
「どう? これでも私のことを掃除下手って呼べる?」
「わかった、わかった。お前は偉くなったよ」
「だけど、まだ私の本領の半分しか見せられてないわ」
ものすごくミーシャはドヤ顔した。
「次は料理よ! 私の手料理を見なさい!」
「食べられるものにしろよ」
「姉御、手伝いますよ」
「あなたたち、私が何もできないって舐めてるでしょ!」
そして、台所でミーシャは料理を作りはじめた。
怖いので、俺もレナも背後から見守っていた。
もし、火事が起きたりしたら、すぐに鎮火しないといけないしな。
「二人とも、ちょっとは私を信用しなさいよ!」
腹が立っているらしく、ミーシャの尻尾が揺れていた。
信用を失うような結果をこれまで見せていたのはそっちなので、しょうがない。
しかし、今度は本物かもしれない。
野菜もちゃんとナイフで切っている。
味付けも後ろから見る限り、まともなレベルだ。
小麦粉を卵で溶いてかき混ぜるという、これまでとは比べ物にならない高等技術も見せている。
「私はやればできる子なの。ご主人様、私を惚れ直すはずよ」
挑発的にミーシャはそんなことを言った。
さて、できた料理は以上のとおり。
・タマネギを入れたミルクポタージュスープ。
・シカ肉の煮込み料理。野菜も入っていて、栄養バランスもよい。
・デザートにレーズン入りスポンジケーキ。
ここに買ってきたパンがつく。
「すごい。見た目だけなら完璧だ……」
「姉御、これは幻覚を見せる魔法ですかね……?」
「現実だし、味だってちゃんとしてるわよ!」
本人はそう言ってるけど、味の審査をするのは俺とレナだ。
スプーンでまずスープをすする。
「う、うまいっ!」
俺は思わず、席を立った。
「しっかり牛乳のコクを感じさせつつ、さっぱりしていて、メインディッシュまでの流れを妨げない!」
「姉御、このスープ、パンにひたしてもまたよしですぜ!」
「でしょう? スープはあくまでも食事を盛り上げる手段。そのあとの邪魔をしない範囲で、かつおいしいことが求められるの」
なんで、こんな料理人みたいなことをしゃべりだしたのか。
「もしかして変化魔法でどっかのメイドさんでもミーシャの姿にしてるんじゃないだろうな?」
「ご主人様! 疑いすぎ!」
でも、それぐらい、変わったんだよなあ。
シカ肉も臭みがまったくない味付けだし、スポンジケーキも軽くて、食後でもぽんぽん食べられる。
「ミーシャ、お前は鍛えられて帰ってきたんだな……」
「わかってくれればいいのよ」
俺はミーシャを讃えて、抱擁した。
ミーシャは生まれ変わったのだ。
「ご主人様! 私、立派になったよ! だから嫌いにならないでね!」
「バカ! 嫌いになんてなるわけないだろ!」
そんなところで不安にならないでくれよ。
俺がミーシャを嫌いになったことなんて一度もない。
あっ! そうだ、そうだ。ご褒美をあげないと。
「お前に渡すものがあるんだ」
俺は白銀のティアラをミーシャに渡した。
「何これ、お姫様みたい……」
「姉御、本当にお姫様顔負けですぜ!」
レナもまるで娘の花嫁姿でも見てるみたいに涙を浮かべていた。
こいつ、けっこう涙もろいんだな。
「ありがとう、ありがとう、ご主人様!」
「生まれ変わったお前にはよく似合うよ」
だけど。
もう一度、抱き合った時に限界が来た。
ミーシャが黒猫に戻る。
どうも、酔っ払ったみたいに、よたよたしている。
「ご、ごめんなさい……。私、疲れがたまってて……」
「よしよし、ゆっくり休め」
その日、俺は久しぶりに猫のミーシャを抱き締めながら眠った。
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