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25話 ミーシャ修行に出る

 俺が食事用の部屋に出ていくと、レナが困った顔をしていた。

「姉御が自分で作るって聞かなかったんでさ……。私は止めたんですけど……」


「ふ、ふん! 私だって料理ぐらい作れるのよ……。これまでは本気を出してなかっただけ……。さあ、めしあがれ!」


 めしあがれとは言われたものの――

 テーブルには、四分の一に切断されたキャベツ。

 ニンジン一本。

 シメジの種類と思われるキノコ。

 そういったものがそれぞれ皿に載せてあるだけだった。


「お前、これのどこが料理なんだ?」

「だ、大丈夫よ! 塩を振って食べればサラダになるわ!」

 よく料理が下手な人って漫画とかで出てくるけど、そういうのを超越していた。


 これは料理ではない。

「わかった。じゃあ、ミーシャ、お前が先に食べてみろ」


 10分後。

「ごめんなさい、本当にごめんなさい……」

 ミーシャが俺に謝っていた。

「あんなにまずいとは思わなかったわ……」


「わかったなら、いい。お前、せっかくだしレナに料理でも教わったらどうだ?」

 レナは胸を張って言った。

「姉御、いくらでも教えますぜ!」

「嫌よ……。あなたに聞くのは嫌……。それじゃ、結局あなたを超えられないもの……」


 超えるとか超えないとか、そんな高いレベルまで到達してないのだが。


「まあ、私は姉御の気持ちを尊重しますぜ。さてと、そろそろ掃除の時間だな」

「レナは本当に働き者だな」

「体を動かすことはずっと好きだったんですぜ。気持ちを切り替えるのにも役に立つんでさ」


「今日はダンジョンに行かない日だし、俺も手伝うわ」

「じゃ、じゃあ、その掃除、私もやるわ!」

 ミーシャが「はい、はい!」と手を挙げた。

 別に掃除って立候補制じゃないぞ。


 正直、嫌な予感しかしない。

「ミーシャ、お前は窓の掃除はするな。床でも拭いてくれ」

 ガラスを割るというお決まりのやつをやりそうだ。

 あと、床を拭くのなら、猫の遊びの延長線上でやれると思ったのだ。


 甘かった。


 3分後、ミーシャは頭からバケツをかぶっていた。

「掃除って難しいのね……」

 濡れ鼠ならぬ濡れ猫耳獣人のミーシャが言った。


 違う。お前が下手すぎるんだ。

 わざとやっているのかとすら思ったが、15分後、もう一回バケツを倒して水をかぶっていたので、ガチだとわかった。


 昼食の時間。

 ミーシャはずっと落ち込んでいた。

 人間になる気力もないのか、猫の姿でテーブルに座っていた。


「まあ、得手不得手はあるからさ……」

「姉御はその分、無茶苦茶強いんだろ? だったら問題ねえじゃねえか!」

 フォローの声もあまり届いてはいないらしい。


「私が掃除も料理もできないのも事実だわ。でも、このままはじゃダメなの……」

 猫の姿のままミーシャは泣きそうになっている。

「このままだと、絶対に、絶対に、レナにご主人様をとられちゃうもの!!!」


 俺よりレナのほうがぽかんとしていた。

「姉御、そんな家の和を乱すようなこと、私はする気ないですぜ」

「あなたにフォローなんてされたくないわよ! それに!、あなたがそう思っていても、ご主人様の心が絶対にあなたに移っていくわ……野性の勘よ」


 それを言うなら女の勘ではないかと思ったが、ミーシャ的には正しいのか。


「杞憂だ。俺はちゃんとお前のことが好きだって。浮気なんてしない」

 ミーシャの目を見て、俺は言った。


「わかった……」

 ミーシャがこくりとうなずいた。

「よし、わかってくれたか」


「私、修行してくるわ!」


 ミーシャが何を言っているか、よくわからなかった。


「家事の修行をして、その泥棒犬にとられないように立派になって戻ってくるわ!」

「修行ってどこでやるんだよ……。ダンジョンじゃできないぞ」

「アテならあるわ」

 ミーシャの顔にやっと笑みが宿った。


「私たちがお世話になってた宿よ! おかみさんとルナリアに鍛えてもらう!」


 これは本気だな。

 やる気になってるのに水を差すのも悪いし、止めはしないとして。


「宿に受講料はちゃんと払っておけよ」

 おかみさんはそんなお金はいらないと絶対言うだろうけど、想像以上の迷惑になるからな。

「わかったわ。私、絶対にレナより家事のできる女になって戻ってくるから!」


 そして、ミーシャは旅立っていった。

 いや、同じ王都の宿だけどな。


「姉御って面白い猫ですな」

 悪意なくレナが言った。

明日からは夜11時頃の一回更新にする予定です。

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