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24話 犬耳メイド

 その時、俺は確信した。

 ミーシャって本気で犬が嫌いなんだな……。


 なお、決着は20秒ぐらいでついた。


「なっ! 猫がブハッッッ」

「えっ、猫が――――グフッ……」


 俺のほうを見てたら猫が襲ってきたのだから、まあ、こうなるよな。

 頭目の女はそれなりの実力者だったみたいだけど、相手が悪すぎた。ほかの手下と同じように猫パンチでノックアウトされた。



 俺は倒れて獣人に戻った盗賊たちを縄で縛っていった。

 これでひとまず任務は完了だ。


 その中で頭目らしい女だけが目を覚ました。

「まさか猫もただ者じゃなかったとは思わなかったぜ……」


「そういうことよ。残念でした」

 ミーシャが変化魔法で獣人の姿になる。

 これで頭目も完全に「トリック」に気が付いたらしかった。


「そっちも獣人みたいなものだったのね。まあ、いいわ。私は盗賊団のリーダー、レナ」

 捕えられたとは思えないほど、レナと名のった獣人はさばさばとしていた。

 自己紹介というのも変だが、俺も一応、自分の名前とミーシャの名を告げた。


「ケイジとミーシャ、あなたたちにお願いがあるの。あくまでお願いだから聞くかどうかは任せるけど」

「いったい、何だ?」

 レナがこくりと頭を下げた。


「まともに指名手配になってて、引き渡して価値があるのは頭目の私だけだよ。だから、私以外の3人は逃がしてやってほしい。もちろん、もう悪いことはするなって私から言っておく。私の言ったことを裏切れるほど肝の太い連中じゃないから大丈夫さ……」

 部下の解放を要求ってことか。

「そもそも、金持ちの家に入る計画を立てたのは全部私だ。こいつらだけじゃ何もできないさ。なっ、頼むぜ……」


「犬の割にはいい心がけね」

 ミーシャの表情がやわらかいものになる。

「ご主人様、この盗賊はウソは言ってないと思うわ。解放してあげましょ?」


 俺は少し考えていた。

 それで、一つの提案をすることにした。

「なあ、レナ、お前の顔は割れてないか?」

「仕事中は顔を隠してたし、おそらく普段は獣人だってことぐらいしか認識できてないと思うよ」

 この時代の警察組織なら隠し通せるか。


「わかった。あとでお前のアジトに火をつけて燃やす」

「なんでそんなことするんだい? どうせ盗んだものは孤児院やらなんやらにばらまいて、何も残ってないけどさ」

「それでお前らはアジトに火をつけて焼身自殺を図ったことにする」


「「えっ……?」」


 レナとミーシャの声が重なった。


「お前らは好きなように生きろ。当然、また犯罪をやるようなら絶対に捕まえてやるけどな」

 レナはぽかんとしていた。

 ただ、ミーシャのほうはなんとなく意味がわかったらしかった。


「根が悪い奴じゃなさそうだし、やりなおす機会をあげようってことね」

「まあ、そういうことだ」

 真っ先に仲間のことだけ考えるような奴なら、多分大丈夫だろう。

 それに王都近辺でまた悪事を働くなら、ミーシャがにおいを覚えているはずだ。すぐに捕まえに行ける。


「あんたたち、それでいいのか……?」

 むしろ、レナのほうが理解できてないようだった。

「私のご主人様はね、それぐらい人格者なのよ」

 ミーシャがぎゅっと俺に抱きついてくる。


 やっと、レナも理解が追いついたのか、じわじわ目に涙がたまってきた。

「そりゃ、ねえぜ……。そんな恩、返しようがねえぜ……」


「これで一件落着だとは思うけど」

 ミーシャが確認するように言った。

「しばらくは王都あたりに泥棒が出ないか気にしておいてね。これでまた泥棒に戻るなら、ご主人様を裏切ったことになるわけだから、許さない」

「そうだな。俺も許すつもりはない」

 本当は監視でもつけてるほうがいいのかもしれないけどな。


 結論から言えば、本当に「監視」するみたいなことになった。


◇ ◇ ◇


 三日後。

 レナが俺の家にやってきた。

「お前、なんでここに来た……?」


 まあ、住んでる場所に関しては名前教えたし調べもできるんだろうけど。

 むしろ、その格好がわからん。

 いわゆるメイド服姿なのだ。


「旦那と姉御に助けられた恩をどうやって返すか考えたんだよ。それで、二人の身の世話をするのがいいという考えに思い至ったんだ」

 けっこうぶっ飛んでる発想だと思ったが――

 意外と悪くないかもしれない。


 まず、ここで働いている間は盗みに行くことは不可能だから、監視ができていることになる。

 あと、屋敷が広すぎるくせにミーシャが家事をしないので、いろいろとやってもらいたい。


 もっとも、ミーシャはすごく嫌そうな顔をしていたが。

「あのね……ここは私とご主人様の愛の巣なの。あなたが入りこむ隙間なんてどこにも――」

「レナ、よろしく頼む」

 俺は頭を下げた。


「えっ! ご主人様、そんな!」

「お前がダンジョンで活躍してくれるのは事実だし、専業主夫も仕方ないなとは思っている。でも、広すぎて疲れるのも事実だ。それに家事をやってもらってる間にダンジョン潜るほうが効率もいい」

「わ、わかったわ……」

 ミーシャも折れて、こうしてレナがメイドとして住み込みで働くことになった。


 最初、ミーシャは「どうせ、元盗賊なんかがメイドをできるわけがないわ」とタカをくくっていたが、真面目な性格なのが幸いしたのか、レナは建物中しっかりと掃除してくれた。


 しかも、手下にも作って食わせてやっていたからか、料理の腕もそれなりだった。

「なんで、材料は変わってないのに、このスープ、こんなにおいしいんだ……」

 むしろ、俺がこれだけの味にできないことがショックなぐらいだ。


「料理は試行錯誤を繰り返していれば、美味くなるんですぜ。あとは愛情。旦那と姉御がおいしく食べられるようにって考えて作ればいいものになりますぜ」

 エプロンをつけたレナがにっこりと笑う。


 一方で、なぜかミーシャは蒼褪めていた。

 それから、何かつぶやいた。

「このままだと、ご主人様が取られちゃう……」


 まあ、お前が家でぐうたらしていることは事実だからな。


◇ ◇ ◇


 そして、その二日後の朝。

 俺はミーシャに起こされて、今に至るというわけだ。


「きょ、今日から私が朝ごはんは作るわ……。さあ、作ったから食べに来て……」


 献身的になってくれたのはありがたいのだが、俺には一抹の不安があった。


 ミーシャって料理なんてできるのか?

次回は本日夜11時の更新予定です!

さて、ミーシャに料理はできるのか?

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