21話 いちゃらぶお風呂時間
20話を超えてました。一応、夫婦の間で家事の話はついたようです。
そして、お風呂に入った時。
獣人の姿でミーシャが待っていた。
もちろん、お風呂だから裸で。
「ほら、ご主人様、早く洗って」
「あ、ああ……ミーシャ、猫の姿じゃないんだな……」
どうしたって落ち着かない。
背中をタオルでこする。
猫と違って、獣人の体は毛なんて生えてない。むしろ、すべすべだ。
「ふふふっ。ちょっとだけくすぐったい」
妖しくミーシャが笑う。
「まあ、暴れられたりしないだけいいのかな」
猫によっては、体を洗われるのを無茶苦茶嫌がって、噛みついてくるのもいる。
「じゃあ、次は頭ね。マッサージするみたいにして」
植物性の石鹸をつけて、こする。
あまり泡立たないが、もともと頭皮の汚れはシャンプー以外の部分で七割はとれるらしいから、しっかり洗えば問題はない。
それで、ここまではよかったのだが――
「はあ、次は足を洗ってもらおうかしら」
ミーシャが左側の足を突き出した。
こうなると、俺が前に来て洗うしかなくなる。
思いっきり、ミーシャの裸を見ることになる……。
「あんまり、じろじろ見ないでね。いやらしいわ」
いたずらっぽくミーシャが言う。
「わかってるよ……」
心をなだめながら、できるだけ無心でミーシャの足をタオルでこすってやる。
「ご主人様を働かせちゃって悪いなと思ってる自覚はあったの」
「なんだよ、確信犯かよ」
「でも、猫が働くのもおかしいじゃない。猫と人間はこうやってずっと長い間、楽しくやってきたんだから。それが嫌なら犬を飼えばいいのよ」
それはたしかに正論ではある。
あくまでも、ミーシャは猫なのだ。
学校で知り合ったのでも、合コンで意気投合したのでもなくて、俺がペットショップで選んだ。
だから、ミーシャは奉仕されて当然の位置にいる。
「別に不満はないさ。俺はミーシャの主人なんだから、主人としてやることをやる」
「ありがとう、ご主人様」
ミーシャがにっこりと微笑む。
「だから、そんなご主人様に定期的にご褒美もあげないとねと思ったの」
ミーシャが俺の体に抱きついてきた。
その体温をはっきりと感じる。
さらに、俺の顔を猫みたいにぺろぺろ舐める。
くすぐったいというより、もっと別の感情が沸き起こってきて、扱いに困る。
「私がご主人様を好きなのは何も変わらないわ。ほら、もっといちゃらぶしましょう」
「そんなこと言われたら、俺も我慢でなくなっちゃうんだけど……」
年頃の裸の猫耳美少女にこう甘い声で言われて、なんとも思わない男なんているわけがない。
「私を楽しませるのもご主人様の仕事じゃない。早くしてよ」
また、挑発するようにミーシャが笑う。
「じゃあ、仕事をしてやる!」
そのあと、無茶苦茶愛しあった。
多分、30分の間に「ご主人様大好き!」と30回は言わせたと思う。
浴槽につかっている時も、だいたいずっとミーシャに抱きつかれていた。
「いい? 家事とかはご主人様の仕事。その代わり――」
ミーシャが一呼吸置いて、それからこう続けた。
「私は冒険者としてご主人様と贅沢できるだけのお金を稼いであげる。ご主人様と私の幸せのために、私は私ですっごく頑張るわよ。王子様とお姫様みたいな暮らしをしましょう!」
ああ、ミーシャもミーシャなりに俺のことは考えてくれてるんだよな。
「それと、ご主人様ももっと、もっと、強い冒険者にしてあげる。これでおあいこよ」
「うん、お前のやり方でいいよ」
「あと、猫の時はよかったけど、獣人になると汚れが気になるの」
異世界だとめったに風呂に入らない人間も多いが、その点、ミーシャの価値観は日本人の価値観のほうに近いらしい。
「だから、何度も体洗ってもらいたいんだけど、いい?」
「ああ、いいぞ。ダンジョンに潜ったら汚れもするしな」
「もちろん……いちゃいちゃもするんだからね……」
あっ、これ……目的は体を洗うことじゃないやつだ……
その日から「体洗って」は俺たちの間で別の意味を持つことになった。
どうやら、これからも俺がミーシャに奉仕する生活は続きそうだ。
でも、この調子なら、俺も専業主夫をやれそうな気がする。少なくともお互いが納得したうえでの役割分担だからな。
◇ ◇ ◇
なお、庭や菜園を耕すことだけはミーシャがやってくれることになった。
「猫の姿で地面を掘るの、けっこう面白いの」
――ということらしい。獣人の姿で食事中に言った。
「猫の姿なら泥だらけになっても、そんな違和感ないしな」
「それでね、ご主人様」
上目づかいでミーシャが言った。
「泥だらけになったら、また、体洗ってね……」
変則的ですが、23話まで先にアップしました! ミーシャ、ご主人様にご奉仕をはじめますが、その原因とは――