17話 冒険者ミーシャ、ケンカを売る
本日から新居生活編をはじめます! まあ、そんなに変わらないですけどね・・・。
起きたら昼前になっていた。
食事のために一階に降りていったら、
「おやおや、昨日はお楽しみだったようだねえ」
とおかみさんに茶化された。
実際、そうなので文句も言いようがない。
ミーシャも人間の姿に慣れてないのか、ちょっとしんどそうだった。
「人間ってあんまり寝ないのね……。私、もっと寝てもいいかも……」
「猫は寝たい時に寝てるからな」
「少しずつ人間のリズムに合わせていくわ」
そういえば、食事でちょっと気になることがあった。
「ミーシャ、猫が食べられないものって口に入れて大丈夫なのか?」
たとえば玉ねぎとか。
人間がOKだが、猫や犬が食べると毒になってしまうものは多い。
「そんなこと言われても、この姿になったばかりだからわからないわ。魔道書も猫が獣人になって生活することを想定してないから、何も書いてなかった」
「あ~、それなら問題ないよ。獣人の客も泊めたことあるけど、人間が食べるものが無理だなんて話は聞いたことがないから」
おかみさんからありがたい情報が聞けた。
やっぱり、長らくこの世界で生きているだけあるな。
これでミーシャも心おきなく玉ねぎの入ったスープを食べられるが――
「ちょっとぴりぴりする味ね」
初体験の玉ねぎの味はそこまでおいしいものではなかったらしい。
そういえば、人生初の玉ねぎを食べた記憶なんてないからわからないな。
食事のあと、ミーシャと一緒にギルドを目指す。
ただ、思ったよりも時間がかかった。
ミーシャの足がとにかくゆっくりなのだ。
人間の歩行が慣れてないというわけではない。それぐらいは問題なくできる。
単純に人間の目で見える世界が物珍しいらしい。
「へえ、こんなふうに見えてたんだ……」
もう、王都にはじめて来たおのぼりさんそのものだった。
逆に言うと、おのぼりさんに見えるから不審な感じはない。
まず、ギルドの前に服を扱う店に行って、尻尾の出せるローブを購入した。
ミーシャが黒猫だったというのもあって、黒いローブだ。
「どう? 似合うかしら?」
店の中、俺の前でくるっと回ってみせるミーシャ。
「うん、本当に似合ってる。むしろ、似合いすぎてる」
ミーシャとはずっと一緒だったけれど、今の人間のミーシャと過ごした時間は短い。
だから、ミーシャの笑顔が余計にまぶしい。
「ちょっと……ミーシャがかわいすぎて困る……」
「この姿はあくまで魔法の効果だから、それが褒め言葉になるか怪しいけれど、まあ、褒め言葉ということにしておいてあげる」
ミーシャはまんざらでもないという顔だった。
ちなみに俺の感想はそんなにおかしなものではないはずだ。
町の中で、ミーシャに振り返る人がけっこう多かったのだ。
それだけミーシャが美少女だってことで合ってるだろう。
それはギルドの中でも続いた。
視線が一斉にミーシャのほうに集まる。
受付のアリアさんのところに俺とミーシャは出向く。
「あれ、今日は黒猫ちゃんはお連れじゃないんですか?」
そうか……。俺は黒猫を連れてる冒険者と認識されてたんだな……。
「え、ええと……ミーシャは宿に預けてきました……」
「それで、今日はどういったご用件ですか?」
ミーシャがアリアさんのカウンターの前に出る。
「冒険者登録をしに来たの。名前はミーシャよ」
「あれ、飼い猫さんと同じ名前の獣人さんですか……?」
しまった。なんか、不自然な流れになってしまった!
どうしよう。さすがにあの猫が無茶苦茶強くて、変化魔法で人間にまでなりましたとは言うべきじゃないだろうし……。
「ミーシャというのはこの人がつけた名前。この人、自分の飼い猫の名前で私も呼ぶのよ。変わってるわよね」
でかした、ミーシャ!
ただ、俺が猫を偏愛しすぎている変人みたいではあるが……。
「そうですか。ええと、ギルドの説明はいりますかね?」
「大丈夫よ。聞いたことがあるから」
俺の登録時にもいたからな。
「では、Fランクの登録費と年会費で300ゲインです」
「ご主人様、払って」
たしかにお金は俺が管理していた。今後はミーシャにもある程度、お金を渡しておくほうがいいか。
ミーシャはどどめ色のFランク冒険者の腕章をもらった。
ちなみに俺はDランクだから緑色だ。
「ありがとう、アリアさん」
「あれ、私、名前お伝えしていましたっけ?」
なんか、しゃべるうちに微妙にボロが出るな……。
とにかく、登録自体は無事に終わった。
あとは依頼などをこなしていけばランクも上がっていくだろう。
しかし、そのまま無事に帰れそうにはないようだった。
登録が終わったミーシャと俺の後ろに5人組の男ばかりのパーティーが立っていた。
「あんたら、二人だろ? なあ、一緒に組んで、ダンジョンに行かないか?」
スキンヘッドの大男が言ってきた。
見るからに戦士だろって大きなアックスを持っている。
目的はそいつらの視線ですぐにわかった。
ミーシャ目当てだ。
はっきり言ってミーシャは相当な美少女だ。
獣人差別をするような奴でも、そんなことを忘れてしまいそうな美貌。
こいつら、男所帯だから、きれいどころがほしかったんだろうな。
気持ちはわからなくもない。
「俺たちの中には二人Bランク冒険者もいる。なかなかの実力者だぜ。なあ、いいだろ?」
大男がミーシャの肩に手をなれなれしく置いた。
腕章が見えた。Bランクを示す赤色だ。こいつはなかなかの実力者らしい。
俺としては正直、ミーシャを独占したいのと、ミーシャが強すぎることがわかるのもあまりよろしくないので、やんわりと断りたかった。
だが、そうはいかなかった。
やんわりどころか、はっきりとミーシャが断ったのだ。
「嫌よ。汚い手を乗せるな!」
思い切り、その手をミーシャが振り払う。
「私はご主人様と戦うの! あなたたちはお呼びじゃないわ! そのへんの野良猫でも見つけて旅をすれば? いい気分転換にはなるでしょ!」
「おい、お前、冒険者の卵がいきがってんじゃねえぞ!」
ああ……これは穏便にはすまなそうだな……。
「私はね、冒険者登録は初めてだけど、魔導士のレベルは折り紙つきなの。あなたたちにひけはとらないわ!」
「ほう、そう言うならその証拠を見せてみろよ!」
「じゃあ、決闘ってことでどう? たしか、事前に許可を得ての決闘なら犯罪にもならないんでしょ?」
おいおい! はりきりすぎ! はりきりすぎ!
俺はLv15だから冒険者としてはまだ中堅クラスなんだ!
ミーシャは大丈夫でも、多人数同士の戦いだったら、ちょっと危ない!
しかし、その点はミーシャも心得ていた。
「こっちは私だけでいいわよ。そっちは全員で来てもいいから」
もう最初からミーシャは一人でやるつもりらしい。
「お前、パーティーを舐めるなよ!」
こうして、決闘の流れになってしまった。
そのあと、俺はミーシャと二人きりになって、断り方がまずいと文句を言った。
「むしろ、都合がいいと思ったのよ」
だが、ミーシャとしては作戦通りらしい。
「この人間の体でどれぐらい戦えるか、試せるでしょ?」
次回は本日夜11時頃の更新予定です。