このメールを見た人は3日以内に死にます
2日前、次のような文面のメールが来た。
「このメールを開いた人は、開いた日から3日間、だんだんと不幸になっていって、そのうち死んじゃいます。それがいやだったらこのメールを5人くらいに転送してね。」
ああ、ふざけて嫌がる。俺だって最初はそう思った。しかし、今から俺はこのメールの他人に転送しようと思う。頼むから俺を責めないでくれ、俺にはこうする他に道はないのだから……。
2日前の明け方、俺はメールの着信音で目を覚ました。時計を確認すると短針は4と5の間あたりを指している。寝ぼけ眼を擦り、思い頭を起こしながら、ケータイを手に取る。欠伸とため息が同時に出る。正直勘弁してほしい、高校生の朝は早いと言えど、ここまでは早くない。
しかし、まあ、せっかく起きてしまったのだから、とりあえずメールを開いてみる。そしたら、冒頭の文面というわけだ。俺は激怒した。怒りの対象は、俺の睡眠を妨げたことばかりでなく、何とも投げやりな、騙す気も怖がらせる気も微塵に感じさせない死の宣告に対してさえ及んだ。悪戯なら、せめてもう少しやる気を出せとさえ思った。だが、メールの送り主に見覚えはない。故に俺は抗議の声さえあげることはできなかった。俺はやり場のない不満を解消すべく再び眠りに落ちることを決意した。
カーテンの隙間からは柔らかな光が入り込んでいる。もうそんな時間なのかと思い今度はケータイの時計に目をやる。先ほどよりもはっきりした視界に、「4時44分」という表示が入り込んできた。
3時間後、俺はひたすらに走った。理由はただ一つ、遅刻ギリギリだったからだ。ただでさえ、あのメールの所為でよく眠れず、寝坊したというのに、道中俺は様々なアクシデントに見舞われた。
家を出た瞬間には躓きかけ、道中、車が俺の体をかすめ、信号にはことごとく引っかかり、何とか電車に駆け込むことに成功したが、駆け込み乗車は止めろという旨のアナウンスが流れ、恥をかいた。
その日は、次々と「不幸」なことが続いた。そして「不幸」なことが起こる度に、あのメールが俺の脳裏をかすめた。
そして昨日も、次々と「不幸」なことが俺の身に降りかかった。
当初は俺もメールのことなど信じてはいなかったが、こうも続けて「不幸」なことが起これば、疑いの念を持つというものだ。しかも昨日に比べ、今日は一歩間違えれば命にかかわることも多かったように思える。この調子でいくと明日には俺の命も……。
そして今日、俺は学校を休んだ。しかし、このまま家にいても生き残る保証はない。そう思い始めると自然と手は動き、適当なアドレスを打って、例のメールと同じ文面を転送した。
俺は不安で不安で仕方なかった。寝ようと頑張ってみてもなかなか眠りにつくことはできなかった。メールを送ったことで、本当に俺の「不幸」は無くなるのかと、また、あのメールを受け取った人はどうなるのかと。結局俺は、空が明るくなり始めるまで寝付くことができなかった。
俺が目を覚ました時、空は完全に明るくなっていた。今朝の俺の気分は晴れ晴れとしていた。俺は救われたのだ。見ず知らずの他人を巻き込んでしまったことには、多少の罪悪感は覚える。しかし、俺は生き延びることができた。それがうれしくて堪らないのだ。
しばらくしてから、あることの気が付く。遅刻ギリギリなのである。俺は急いで家を出た。玄関では段差に躓きかけたが、体勢をうまく立て直すことができ、転ばずに済んだ。車に引かれそうになり、一瞬ヒヤリとしたが、間一髪、助かった。しかし、なんといっても、あれほど信号に引っかかったのに、電車が数分遅れていたため、間に合った。
呪いが解けたからだろうか、今日の俺は何から何まで運が良い。
今日の俺は「幸せ」だ。